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皇帝ネロやカエサルも愛した「放蕩と悪徳の巣窟」、温泉街の海底遺跡から貴重な大理石の床を発見

南イタリア、ナポリ近郊の海底で精細な装飾が施された大理石の床が見つかった。発見場所は、ローマ皇帝たちも愛した古代ローマの温泉街、バイアエ(バイア)の海底遺跡。床は貴族の邸宅の一部と考えられている。

Photo: Edoardo Ruspantini, Courtesy of Parco Archeologico Campi Flegrei

南イタリアのナポリ近郊の自治体バーコリに、かつてバイアエ(Baiae、バイアとも)と呼ばれる温泉街があった。古代ローマの貴族たちに大人気の保養地で、カエサルやネロといった皇帝たちも邸宅を構えていたという(ちなみに、漫画「テルマエ・ロマエ」で主人公ルシウスが皇帝から改修事業を任された保養所も、ここバイアエのものだ)。

しかし、4世紀ごろになると地盤沈下が始まる。火山活動の影響で地面が周期的に隆起と沈下を繰り返す「緩慢地動」(bradyseism)と呼ばれる現象が原因だった。この海岸の沈下によって邸宅は放棄され、8世紀頃にもなると完全に海に沈んでしまう。

そうして長らく忘れ去られていたバイアエだが、1920年代に行なわれた港の工事で偶然発見され、その後1940年にとあるパイロットが壁や大理石の柱、道路などが鮮明に映った航空写真を撮影したことから、本格的な発掘作業が始まる。

そしてこのたび、新たに希少な岩石で彩られた大理石の床が発見された。

床は正方形に円と八角形を組み合わせたデザイン。今回の調査では、同じデザインのパターンをもつ正方形が約600個、規則正しく並んでいることがわかったという。Photo: Edoardo Ruspantini, Courtesy of Parco Archeologico Campi Flegrei

石を「リサイクル」した形跡も

大理石の床は、床面積が250㎡を超える大きな貴族の邸宅跡の見つかった。建物の形状から、バイアエが海に沈み始める直前の4世紀ごろに建てられたものと考えられている。

大理石や真珠層、ガラスなどの材料を切ってはめ込み絵や模様を作る「オプス・セクティレ」と呼ばれる技法でつくられていた。そのカラフルな模様は大理石の中でも特に高価なパボナゼットやチポリーノ、希少な灰色の花崗岩、さらにはサーペンティンやポルフィリー石など、質も色も異なる希少な石を使っていることに由来する。一方で、一部の石は別の場所に使われていたものを「リサイクル」していた可能性も指摘されている。

なお、この邸宅には高さ約10mにもなる壁があったが、それが地上にある間に何らかの原因で倒壊したため、大理石の床も損傷を受けていた。現在も調査および修復作業は続いており、大理石の一部は陸上に移して清掃および修復されているという。

発掘された床の破片。Photo: Edoardo Ruspantini, Courtesy of Parco Archeologico Campi Flegrei

その享楽的なライフスタイルから、詩人セクストゥス・プロプロティウスが「放蕩と悪徳の巣窟」と揶揄し、哲学者のセネカが友人への書簡で「贅沢の渦」「悪徳の港」と呼んだというバイアエ。そのぜいたくな生活の片鱗がいまも残る海底遺跡は、カンピ・フレグレイ考古学公園(Campi Flegrei Archaeological Park)として大部分が公開されている。今回の調査および修復作業も、同公園の考古学チームが主導したものだ。

過去の調査では浴場やフレスコ画、彫刻や円柱などが見つかっており、同公園は考古学的に貴重な遺跡であると同時に、ダイビングスポットとしても人気を博している。