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世界一のアート大国、米国の「アートシティ」トップ5 UBSが新リポートを発表

世界最大のアートフェア「アート・バーゼル」とスイスの金融機関UBSは、世界のアート市場に関する包括的なリポートを毎年発表している。この年次報告書に加え、今年初めて米国の主要都市にスポットライトを当てたリポートが発行された。両リポートとも、アーツ・エコノミクス社の創業者で、著名な文化経済学者のクレア・マッキャンドルー博士がまとめたものだ。

ニューヨーク・マンハッタンを望む NDZ/STAR MAX/IPx 2022 via AP Images

「The Art Basel and UBS Global Art Market Report(アート・バーゼル・アンド・UBS・グローバル・アート・マーケット・リポート第6版)」によると、2021年の米国アート市場の売り上げ高は約280億ドル。これは世界のアート売り上げ総額の半分近くに当たる。

追加発表されたリポート「The Role of Cities in the US Art Ecosystem(米国のアート業界における都市の役割)」では、米国のアート市場を都市別に分析している。その結果によると、上位5都市は、ニューヨーク、ロサンゼルス、サンフランシスコ、シカゴ、マイアミ。いずれも主要な美術館やギャラリー、アートフェア、アーティストの拠点だ。

マッキャンドルー博士は声明で、「この調査では、米国の主要なアート拠点における美術関連施設の構造や成り立ちに注目した。また、売り上げ高や財務指標に加え、これらの施設がどのような選択をしているか、リスク志向はどの程度か、行動様式にどのような特徴があるかなどを調べ、それが新しいアーティストのキャリアにどう影響するかを考察している」と述べている。

博士は、カナダの調査会社Wondeur AI(ワンダーAI)の協力を得て、2017〜21年の期間に、1900年以降に生まれたアーティストの作品を積極的に取り上げている4150の美術館・ギャラリーの展覧会を対象に、さまざまな分析を行った。

Wondeur AIは25万人のデータベースに基づき、アーティストを「スター」「中堅」「新進」に分類しているが、スターアーティストは全体の4%に過ぎないものの、美術館の展覧会の47%、ギャラリーの展覧会の23%を占めていることが分かった。一方、新進アーティストは全体の84%。美術館の展覧会の17%、ギャラリーの展覧会の36%が新進アーティストによるものだった。

リポートの中では、Wondeur AIが開発した2つの指標による分析も行われている。1つ目の指標は「リスク志向スコア」、つまり「新進アーティストを他の美術館やギャラリーより先に展示したいという意欲」で、スコアが高いほど意欲的であることを示す。2つ目は「パフォーマンススコア」で、アーティストが本格的な展覧会の後も継続して個展を開き、長期的にキャリアを積み上げているどうかを示している(評価対象は2010年以降に初の個展を開催したアーティスト)。

さらに、女性アーティストの展覧会は全体の30~45%にとどまるなど、今も性別による不平等が残っていることが明らかになった。

以下、主要5都市の調査結果を紹介する。


1. ニューヨーク

Photo: NDZ/STAR MAX/IPx 2022 via AP Images

第2次世界大戦後、ニューヨークは米国を代表するアートの都としてトップを走り続けてきた。調査結果によると、米国で最も多くの美術館が集中しており、その割合は全体の26%。また全展覧会の36%がニューヨークで開催されている。さらに、ギャラリーの37%、非営利アート施設の16%を占めている。

ニューヨークのギャラリーでは展覧会の3分の1近くがスターアーティストによるもので、新進アーティストは約4分の1。美術館でもスターアーティストの展覧会が3分の1強を占めたが、新進アーティストは14%にとどまった。女性アーティストの割合は、ギャラリーで39%、美術館では41%だった。

リスク志向スコアは、ギャラリーが82、美術館が70。パフォーマンススコアは、ギャラリーが21、美術館が36。男女別のリスク志向スコアは、ギャラリーでは男性アーティスト、女性アーティストともに83で、5都市のトップに立っている。美術館では男性アーティストが73でトップ、女性アーティストは65で2位だった。


2. ロサンゼルス

Photo: Kirby Lee via AP Images

1960年代以降、ロサンゼルスは実験的な手法が生まれる都市として知られるようになった。主要なアートスクールがアーティストを育てるとともに、国内最高の指導者を集めている。以前からアートの中心地を自負してきたロサンゼルスだが、特にここ数年、大手ギャラリーの進出や新しい私立美術館の設立、アートフェア「フリーズ(Frieze)」の開催などで、国際的にも注目が高まっている。

それでも、ロサンゼルスの美術館は全体の7%、ギャラリーは10%、非営利アート施設は5%だ。また、美術館や財団で開催された展覧会は全体の8%だった。

ギャラリーの展覧会では、スターアーティストによるものが29%、新進アーティストは23%。美術館の展覧会では、スターアーティストが50%、新進アーティストが21%だった。女性アーティストの割合は、ギャラリーで38%、美術館では36%となっている。

リスク志向は、美術館、ギャラリーともに70。パフォーマンススコアは、ギャラリーが30、美術館が33だった。

ロサンゼルスは、女性アーティスト全体のパフォーマンススコアが30で5都市中トップ。ギャラリーでは26、美術館は50だった。男性アーティストのパフォーマンススコアも、ロサンゼルスのギャラリーは34で、他の都市を上回った。美術館については、女性アーティストのリスク志向スコアが67でトップ、男性アーティストは72でニューヨークに次ぐ2位となった。


3. サンフランシスコ

Photo: Michael Ho Wai Lee / SOPA Images/Sipa USA, via AP Images

サンフランシスコは、古くから文化が重要な役割を担ってきた都市だ。その伝統は、サンフランシスコ近代美術館(SFMOMA)、サンフランシスコ美術館(FAMSF)、サンフランシスコ・アート・インスティテュート(SFAI)などの主要美術機関や、数多くの有名ギャラリーによって長年受け継がれている。

美術館数は全体の4%、ギャラリーは5%、非営利アート施設は3%で、全展覧会の4%がサンフランシスコで開催されている。

ギャラリーの展覧会では、スターアーティストが29%、新進アーティストが39%。美術館では、スターアーティストが56%、新進アーティストが19%を占める。女性アーティストの割合は、ギャラリーが36%、美術館では42%だった。

リスク志向スコアは、ギャラリーが74、美術館が61。パフォーマンススコアは、ギャラリー、美術館ともに16だった。


4. シカゴ

米国で最も権威のある美術館の1つ、シカゴ美術館が象徴するように、シカゴは中西部におけるアートの中心地の役割を担ってきた。美術館数は全体の3%、ギャラリーは4%、非営利アート施設は3%。展覧会の4%がシカゴで開催されている。

ギャラリーの展覧会では、スターアーティストが16%、新進アーティストは39%。美術館はスターアーティストが48%、新進アーティストが24%となっている。女性アーティストの割合はギャラリーで43%、美術館では40%だった。

リスク志向スコアは、ギャラリーが74、美術館が48。パフォーマンススコアは、ギャラリーが23、美術館が34。

シカゴは、美術館における男性アーティストのパフォーマンススコアが53で5都市中トップとなった一方、女性アーティストのパフォーマンススコアは12で最も低かった。シカゴは女性アーティストに関するリスク志向スコアも最も低く、ギャラリーは68、美術館は33にとどまっている。


5. マイアミ

Photo: AP Photo/Lynne Sladky

マイアミビーチでアート・バーゼルが開催されるようになったおかげで、過去20年間でマイアミの知名度は飛躍的に高まった。それに伴い、美術館が優れた企画を打ち出すようになり、フロリダ州南部には次々とギャラリーがオープンしている。

米国の美術館のうちマイアミにあるのはわずか2%だが、展覧会数では、サンフランシスコ、シカゴと並ぶ4%だった。ギャラリー数は全体の3%、非営利アート施設は2%。

ギャラリーの展覧会では、スターアーティストが10%、新進アーティストは29%を占め、中堅アーティストが61%だった。美術館では、スターアーティスト61%、新進アーティスト39%。女性アーティストの割合は、ギャラリーで28%、美術館では36%となっている。

リスク志向スコアは、ギャラリーが74、美術館が48。パフォーマンススコアは、ギャラリーが17、美術館が33だった。

女性アーティストのパフォーマンススコアは、ギャラリーでは13と全米で最も低く、美術館では下から2番目の14だった。同時に、興味深い結果もある。それは、マイアミは「美術館でもギャラリーでも、女性の新進アーティストが男性の新進アーティストよりも初個展を開催できる可能性が高い唯一の都市」ということだ。(翻訳:清水玲奈)

※本記事は、米国版ARTnewsに2022年5月31日に掲載されました。元記事はこちら

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