米首都ワシントンで「黒人の命は大切」の巨大文字を消去。トランプのDEI廃止を背景に共和党が圧力
アメリカ・ホワイトハウス近くで、路上に描かれた「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命は大切)」の巨大な文字を消去する作業が開始された。交付金の凍結を盾にした共和党議員の圧力によるものとされる。

3月10日、アメリカの首都ワシントンD.C.のホワイトハウス近くで、車道いっぱいに描かれた「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命は大切)」の文字を消す作業が始まった。今後約6週間かけて全体を消去する。
ワシントンD.C.の路上に「ブラック・ライブズ・マター」の黄色い文字が登場したのは2020年。同年、ミネアポリス警察による黒人男性ジョージ・フロイド暴行死事件が起き、それに対する抗議運動が全米に広がったのを受け、ワシントンD.C.のハウザー市長の主導で描かれた。市長はまた、このエリアを「ブラック・ライブズ・マター広場」と命名している。
今回、市長の急な方針転換で巨大文字の消去が決まった背景には、共和党の圧力がある。共和党議員が、路上の文字を消して名前を変えない限り、日本円で数億円にのぼる政府からの交付金を凍結するという法案を提出したのだ。
「ブラック・ライブズ・マター広場」は、一連の抗議行動後に人々の団結を示すシンボルを残す意図で生まれたが、左派にも疑問の声はあった。たとえば、2020年にブラック・ライブズ・マター運動のワシントンD.C.支部は、X(旧ツイッター)への投稿で、路上の文字は「真の政策変更から目をそらすパフォーマンス」だと指摘している。
一方、「多様性・公平性・包摂性(DEI)」政策の見直しを進めるトランプ大統領は、先週の施政方針演説でこう主張した。
「我われは、全ての連邦政府機関、民間企業、軍で、いわゆるDEI政策による専制に終止符を打った。米国は二度と『WOKE(ウォーク)』(*1)にはならない」
*1 WOKE(ウォーク)は「目覚めた」の意。性的少数者の権利拡大や環境保護運動などで急進的な政策を推進する活動家を批判する際などに用いられる。
連邦政府の全省庁でDEIを廃止する大統領令によって、すでにさまざまな活動が削減される中、施政方針演説での発言にさほどの驚きはない。そして、文字が消されたとしても希望を持ち続ける人たちはいる。
ワシントンD.C.の元住民、カレン・ロングはUSAトゥデイ紙の取材にこう答えた。
「(人種差別反対の)運動は過去にもありましたし、これからも続きます。これで終わりではないのです。誰かが『あのシンボルがあるのが気に入らない』と言っただけのこと。そのような感情を抱いているのだから、そうさせてあげればいいだけです」
なお、ワシントンD.C.では、来年7月の建国250周年祝賀行事の一環として、街全体に壁画を描くプロジェクトが計画されている。(翻訳:石井佳子)
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