寄贈されたフランシス・ベーコン作品は本物ではない!? テートが返却を発表
英国のテートで誰もが予想しなかったことが起きた。フランシス・ベーコンと親しかったバリー・ジュールから寄贈された膨大な作品群を返却する方針が発表されたのだ。この発表の背景には、寄贈品が本物であるかどうか疑わしいとの調査結果がある。
ジュールは、1978年からベーコンが亡くなる92年まで親交があったとされる。つい2カ月ほど前には、ジュールが約20年前に寄贈したベーコンの作品をテートが展示しなかったため、新たに作品を寄贈する計画を撤回していた。ジュールはテートに対して法的措置を取る姿勢を示している。
2004年にジュールは、ベーコンのアトリエにあったというドローイングや写真など約1200点、推定2000万ポンド(約2510万ドル)相当の作品をテートに寄贈。当時テートは、3年間で目録を作成したのちに一般公開を行うとしていたが、結局のところ展示は実現しなかった。そして6月8日、テートは寄贈者への返却を申し出たことを発表。非常に珍しいケースだが、法的には問題がないとされている。
アートニュースペーパー紙によると、テートはジュールの寄贈品について声明で次のように述べている。「美術史家による調査で、寄贈品の特徴や質について疑いが生じた。この調査結果は信頼に足るものだ。そのため、ベーコンの芸術に対する一般の理解を高めるのに役立つ可能性はなくなった」。ジュールは、本物ではない作品が含まれているという点を否定している。
バリー・ジュール・アーカイブ(BJA)として知られるジュールの寄贈品については、以前から真贋をめぐる論争が続いている。2021年9月にベーコン・エステートが出版した『Francis Bacon: Shadows(フランシス・ベーコン:影)』では、テートの元学芸員アンドリュー・ウィルソンの「寄贈された作品の特徴からすると、かなりの部分でベーコンは含まれていないかもしれない」との言葉が引用されている。さらに22年4月には研究者が真正性に疑念を抱いていることが明らかになり、騒ぎが拡大していた。
テートと対立する格好になったジュールは、ベーコンによる別の作品群(ドローイング約150点、絵画10点および文書や音声記録などのアーカイブ資料)をポンピドゥー・センター(パリ)のナショナルアーカイブに寄贈する意向で交渉を始めたと発言している。ポンピドゥー・センターは2019年、「Bacon en toutes lettres(文学でたどるベーコン)」と題し、ベーコンの絵画に影響を与えた文学作品にスポットライトを当てる展覧会を開催した。
テートが長年保管していた寄贈作品を返却するという決定が、ジュールとポンピドゥーの間で進行中の交渉にどう影響するかは分からない。ARTnewsはポンピドゥー・センターにコメントを求めたが、返答は得られていない。(翻訳:清水玲奈)
※本記事は、米国版ARTnewsに2022年6月8日に掲載されました。元記事はこちら。