ヒルマ・アフ・クリント作品が見られなくなる? 財団理事長が「精神の探求者だけに公開すべき」と主張
現在「ヒルマ・アフ・クリント展」が、東京国立近代美術館が開催中だ(6月15日まで)。そんな中、ヒルマ・アフ・クリント財団の理事長は、彼女の作品は一般公開せずに「精神の探求者」たちだけに見せるべきだと主張している。

現在、東京で「ヒルマ・アフ・クリント展」がアジア初の回顧展として開催されている。そんな中、ヒルマ・アフ・クリント財団の理事長で、アフ・クリントの玄孫であるエリク・アフ・クリントは、「彼女の作品を美術館に展示するべきではない」と主張している。
エリクは2年前に理事長に就任して以来、アフ・クリントの意向を厳格に遵守したいという考えから財団理事と意見を対立させてきた。近年アフ・クリントの名声が高まるにつれ、その対立の規模も大きくなっている。
最近の例では、2024年、財団とメガギャラリーのデイヴィッド・ツヴィルナーが進めていた業務提携に対してエリクは、「この契約はアフ・クリント自身が自分の作品を商業化してほしくないという願いに反している」と反対。現在この提携は停滞しており、エリクはストックホルム地方裁判所に財団の理事会の全メンバーを辞任させる旨の訴状を提出した。
この争いの大きな原因は、展覧会開催や商業的パートナーシップに対するエリクの意見が財団理事らに共有されていないということだ。彼は3月10日にスウェーデンのメディアDagens Nyheterに対し、「これは私が望むことではなく、財団の定款が命じていることである」と主張した。財団の定款には、理事会は「ヒルマ・アフ・クリントの精神的な原則が意図した使命を果たすことに貢献できる、あるいは精神的知識を求める人々に作品を提供し続けなければならない」とある。
アフ・クリントは自身を芸術家というよりも神秘主義者として認識し、時に自分の作品を通して星界と繋がっていると考えていた。
エリクは財団の規則に従うため、作品の一般公開を止めて「精神的な求道者」だけに公開を制限しようとしている。彼はまた、過去様々な美術館で行われたアフ・クリントの展覧会も許可されるべきではなかったと主張。エリクはDagens Nyheterに次のように語った。
「ある宗教が美術館で展示されるようになったら、それは死んだも同然です。公開されるべきものではないのです。展覧会から書籍、画像、カーペット、靴下に至るまで、どれも許可されていないのです」
近年、アフ・クリントの作品は前述の東京国立近代美術館やロンドンのテート・モダン、ニューヨークとビルバオのグッゲンハイム美術館などの著名な施設で展示され、今年の5月にはニューヨーク近代美術館(MoMA)でも大規模な展覧会が開催予定だ。
アフ・クリントを研究してきた一部の学者たちは、こうしたエリクの考えを非難している。ドイツの美術評論家でアフ・クリントの伝記作家であるジュリア・フォスはDagens Nyheterの取材に対して、「想像もできない損失です。芸術界全体から大きな抗議が起こるでしょう。そもそも、誰が『精神的な求道者』であるかどうかをどう合理的に判断するのでしょうか?」と語った。
さらにフォスは、他のアフ・クリント家の人々が同じ価値観を共有しているとは思わないと分析し、次のように付け加えた。
「結局のところ、アフ・クリント家のメンバーは長年にわたって、ヒルマ・アフ・クリントの芸術が美術館で展示されることに尽力してきたのです」(翻訳:編集部)
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