「新モデル」でシナジー? サザビーズとペース・ギャラリーがパートナーシップ締結の可能性
現在、アート市場の2大巨頭といえるサザビーズとペース・ギャラリーが、パートナーシップ契約の交渉を進めていることが明らかになった。

アート市場低迷の中で進む、2大巨頭のパートナーシップ
サザビーズとペース・ギャラリーがパートナーシップ契約を結ぶ交渉を進めている。
詳細はまだ何も決まっていないようだが、関係者に近い情報筋がUS版ARTnewsに語ったところによると、これは買収ではなく、「ペースとサザビーズのジョイントベンチャーで、多面的で様々な要素がある『新モデル』というべきもの」だという。
この大ニュースは業界関係者には寝耳に水という話ではなく、数週間前からペースがサザビーズと大規模な投資、合併、あるいは完全な買収について交渉しているという噂が飛び交っていた。2024年はアート市場が低迷し、美術商たちは厳しい市場環境と揺れ動く財政状況について語ってきた。そういう時期であるがゆえの提携話という見方もある。
関係者によれば、近年ペース・ギャラリーは大きな経費負担を抱えているという。韓国のソウルや東京など 世界各地に7拠点を構える以外にも、アート市場が急成長する中、2019年後半にニューヨーク・チェルシーの25丁目に8階建て、6967平方メートルの本社を構えた。 この新ビルは、マーク・グリムシャーCEOがペースの未来のために描いたビジョンだった。グリムシャーはオープンの内覧会で新拠点を、「人々が訪れてゆっくりと時間を過ごすことができる、思考や超越、瞑想のための共同空間」と説明している。
だが、多くのメガギャラリーが自社ビルを有しているのに対して、ペースは土地も建物も所有していない。同ギャラリーはチェルシーのビルのオーナーであるワインバーグ・プロパティーズに20年間のリースで毎月70万ドル(1億400万円)以上の賃料を支払っていると言われており、年間になると約840万ドル(約12億4800万円)にのぼるという。これには1820万ドル(約27億円)の内装工事費と8000万ドル(約118億円)の外装費は入っていない。同ギャラリーの広報担当者はUS版ARTnewsに対し、この数字は不正確だと話した。
ペース・ギャラリーの財政状況について詳しい関係者がUS版ARTnewsに語ったところによると、チェルシー本社に関連するコストはギャラリーの経費全体の10%未満であり、以前の57丁目にあった7階建ての本社の総コストと比較してわずか5%の増加に過ぎないという。
だが同ギャラリーの財政状況は決して良好とは言えない。2022年、ペースはこのビルの使用に関して、不動産会社CBREに対する手数料の未払いが発覚。630万ドル(約9億3600万円)の損害賠償を命じられた。さらに同年の暮れには、ペースが大部分を出資していた体験型アートセンター「スーパーブルー」が資金の大半を使い果たし、計画されていたプロジェクトが頓挫していることが判明。グリムシャーは12月、CEOから顧問へと立場をひっそり変えたと報じられている。
そして2024年10月にグランパレで初開催されたアートバーゼル・パリで、ペースはパブリック・プロジェクトに参加予定だったが、あるアート・アドバイザーの情報によると、予算不足で中止を余儀なくされたという。アドバイザーはこの出来事を、「本当に印象が悪かった」と振り返った。ペースの広報担当者は、そのようなプロジェクトが存在したことを否定している。
しかし、火の無いところに煙は立たないだろう。ある情報筋は今週はじめUS版ARTnewsに、「ペースが売りに出されているとは明言できませんが、彼らは確かに長い間、投資家を探していました」と語った。
ペースとサザビーズの取引の詳細は確認されていないものの、両社間の協議はパンデミック以降、断続的に行われてきた。その時期、両社はイーストハンプトンやパームビーチといった富裕層が集まる地域に進出している。ハンプトンズでは、ペースとサザビーズが2ブロック離れた場所にそれぞれ支店を開設し、パームビーチでは、アメリカの著名なギャラリー、アクアヴェラと共にロイヤル・ポインシアナ・プラザに出店した。
その後、情報筋がUS版ARTnewsに語ったところによると、ペースとガゴシアンが組んでマックロウ・エステートのコレクションを出品することになり、サザビーズがこれに加わったという。この3社は、かつて2020年にペース、ガゴシアン、アクアヴェラが組んでドナルド・マロン・エステートのコレクションをオークション出品した時のような成功を再現しようとしていた。

2社が組むことで生まれるシナジー
これまでペースの芳しくない財政状況を伝えてきたが、サザビーズも同様だった。2019年に同社を買収した、メディア通信大手のアルティスUSAの株主、パトリック・ドラヒによる積極的かつ独断的な債務利用や、市場環境の悪化により、財政的課題に直面してきた。2024年6月にはS&Pグローバル・レーティングが収益の減少とコスト上昇によりサザビーズの信用格付けをBからB-に引き下げたと報告し、2025年1月に同社は2024年の連結売上高が前年比から23%減少したと発表した。同社は合計150人以上のスタッフを対象に2回の人員削減を実施し、大きく変えた手数料体系をわずか7カ月で撤回した。
資金繰りに窮したサザビーズは、2024年10月にアラブ首長国連邦(UAE)のアブダビ首長国の政府系投資会社であるADQから10億ドル(約1500億円)の投資を受ける契約を締結した後、再び活気を取り戻した。ADQから得た8億ドル(約1200億円)は、同社が抱えた16億5千万ドル(約2500億円)の債務返済に充てられる予定だ。
ADQによる資金の残りがペースとの取引で使用されるかは不明だ。ペースとサザビーズのパートナーシップは、即効的にペースに財政的利益をもたらす可能性があるが、サザビーズにとって利益となるかどうかは、2019年にチャールズ・スチュワートCEOが就任して以来推し進めている、「グローバルブランド力を高め、ビジネスをより収益性の高いものにする」という目標の達成如何だ。
サザビーズはスチュワートの監督の下で、車、時計、ワインなどの高級品の2次市場への拡大が進められてきた。近年オープンした香港やパリの拠点では、レストランやワインセラー、コンサート、ファッションショーのためのスペースが完備されており、同社がオークションハウスというだけでなく、あらゆるタイプのコレクターのための目的地となることを意図していることを示している。
また、戦略的パートナーとしてペースを得ることで、サザビーズはプライベートセールからの収益を増加させ、出品作品についてより広い洞察を得ることができる一方、ペースのコレクターはサザビーズの金融サービス部門であるサザビーズ・ファイナンシャル・サービスで優遇レートを受けることができるだろう。
2024年末、サザビーズはニューヨークのマディソンアベニューにあるブルータリズム様式の代表的建築、ブロイヤービルを1億ドル(約151億円)で購入。本社ビルにすることを発表した。ペースが同ビルの1部を使わせてもらうことで、チェルシー拠点のリース料の負担を軽減することを期待していることは想像に難くない。だが業界関係者は、この限りがあるスペースでイブニングセールの大々的な下見会を開催できるのか、そもそもオフィス自体を設けられるかについて疑問を呈している。
オークションハウスがギャラリーを買収した例は過去にもある。例えばサザビーズが2006年にノートマン、その1年後にクリスティーズがハウンチ・オブ・ヴェニソンを買収した。これらのギャラリーは現在存在していない。業界関係者は今回のようなパートナーシップについて、懐疑的な見方を示している。(翻訳:編集部)
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