広がる「やさしい日本語」──都立美術館・博物館のアクセシビリティ向上への取り組み

公益財団法人東京都歴史文化財団は、「誰もが芸術文化に触れることができる共生社会の実現」を目指した3カ年計画の一環として、「やさしい日本語」を活用した都立文化施設のアクセシビリティ向上に本格的に取り組んでいる。

「やさしい日本語」活用に取り組む東京都庭園美術館。2018年撮影。Photo: Wikimedia Commons

公益財団法人東京都歴史文化財団は、都立美術館や博物館、劇場、ホールの管理運営やアーツカウンシル東京による事業を通して、東京における芸術文化の一層の振興と江戸東京の歴史及び文化の継承に努めている。

同財団は2025年秋に開催される世界陸上・デフリンピックを見据え、「誰もが芸術文化に触れることができる共生社会の実現」を目指し、2023年度から3カ年計画を推進。初年度の中心テーマは「情報サポート」、2024年度は「鑑賞サポート」、そして2025年度は「参画サポート」だ。

中でも特に注目すべきは、今年度に行われた「やさしい日本語」を活用した取り組み。「やさしい日本語」の概念は1995年の阪神・淡路大震災をきっかけに生まれた。当時、難解な日本語による緊急速報や避難指示を理解できず被災した外国人が多かったことから、シンプルな表現で伝える必要性が認識されたのだ。やさしい日本語で表現すると、例えば「土足厳禁」は「くつをぬいでください」、「余震」は「あとからくる地震」となる。

3カ年計画での具体的な取り組みとして、東京都庭園美術館は、やさしい日本語による地震・火災発生時のアナウンスや、災害発生時に会場案内スタッフが観客を誘導するためのピクトグラムとやさしい日本語を併記したフリップボードを作成。また、やさしい日本語による英語、中国語、韓国語の避難時のコミュニケーションカードも携帯するようにした。

東京文化会館で災害時の誘導の際に使用される、やさしい日本語による旗。

また、東京文化会館では、やさしい日本語による「災害時の案内」チラシの配布を2025年1月から開始。会場案内スタッフは、災害時に「逃げて」「待って」と書かれた旗を用いて誘導を行う。

同年度は、都立文化施設で「やさしい日本語」による施設案内パンフレットの制作にも取り組んでいる。分かりやすく情報を伝えるためには「掲載情報を絞り込む」ことが大きなポイントとなり、各施設でアクセシビリティ向上を推進する社会共生担当者が時間をかけて制作している。すでに完成したトーキョーアーツアンドスペースのパンフレットは、「レジデンス・プログラム」が「アートの仕事をしている人が東京や外国に住みながら作品を作ったり、作品を作るために必要なことを調べたりすることを助けるプログラム」と平易な表現で説明されたり、全ての漢字にルビが振られたりして必要な情報が分かりやすく伝わるよう工夫されている。

その他の取り組みとしては、視覚障がい者に向けた来館時の館内の案内や情報入手のツールとして、東京都現代美術館、東京文化会館の小ホール、江戸東京たてもの園の建築の触察模型が2024年度内に完成予定だ。

この春からの2025年度について、アーツカウンシル東京の事業部事業調整担当課長である駒井由理子は、「これまで実施してきた情報サポート、鑑賞サポートの充実を図るとともに、3カ年の3つ目のステップ、障がいのある方も運営側に加わり、新たに『参画サポート』の取組を始める年です。障がいのある方に作品の制作過程や運営側に参画してもらうことを目標としていますが、これだけが到達点ではなく、作品や提供方法が変わったり、文化施設が変わっていくことによって、だれもが本当に芸術文化を楽しむことができる状態もあわせて目指していきます」と語っている。

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