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  • 2024.10.08

相続人の確執に巻き込まれた世界遺産の邸宅をデジタルで復元! 内装はクリムト、設計はホフマン

グスタフ・クリムトが内装を手掛け、傑作のモザイク画《生命の樹》(1905-1911)があることで知られるベルギー・ブリュッセルの世界遺産の邸宅、ストックレー邸。相続人の間の争いから20年以上公開がされないままだが、地元自治体は邸宅を3Dデジタル復元し、市民に公開した。

ベルギー・ブリュッセルのストックレー邸。Photo: Alan John Ainsworth/Heritage Images/Getty Images

グスタフ・クリムトが内装を手掛けたベルギーブリュッセル世界遺産の邸宅ストックレー邸は、相続人の確執から20年以上公開がされないままだ。そこで地元自治体は邸宅を3Dデジタル復元し、市民に公開した。ウォール・ストリート・ジャーナル紙が伝えた。

ストックレー邸は、1910年頃、実業家のアドルフ・ストックレーが、ウィーン分離派の巨匠の1人である建築家、ヨーゼフ・ホフマンに依頼して建設した邸宅だ。潤沢に用意された予算の中で、ホフマンはウィーンから芸術家や職人を呼び寄せ、ドアノブから、照明、子どものおもちゃに至るまでデザインさせた。アール・デコ様式を20年以上も早く取り入れ、優美な曲線のアール・ヌーヴォー様式と同居させているのが大きな特徴で、大理石や木材、家具の皮革も最高級品が使われた豪奢な邸宅は、ジャン・コクトー、アナトール・フランス、イーゴリ・ストラヴィンスキーも訪れている。

内装はグスタフ・クリムトとフェルナン・クノップフが手がけ、シャンデリアから銀食器に至るまでの内部の装飾や家具を制作した。中でも食堂は圧巻で、壁一面にクリムトのモザイク画《生命の樹》(1905-1911)が展開している。そんなストックレー邸は、アドルフの娘婿であるアニーが2002年まで居住して以来誰も住んでおらず、2009年6月にはユネスコの世界遺産に登録されたが、アニーの死後、遺族は邸宅への立ち入りを作業員や数名の専門家を除いて禁じている。その理由は、アニーの7人の遺族が邸宅をめぐり揉めているからだ。ある者は州に寄付したいと望み、またある者はそこから利益を得たいと望んでいるという。

ストックレー邸の食堂。壁一面にグスタフ・クリムト《生命の樹》が展開する。1911年頃撮影。]Photo: Imagno/Getty Images)
グスタフ・クリムト《生命の樹》(1905-1911)Photo: Wikimedia Commons

2013年から邸宅のある地区の市長を務めるブノワ・セレクセは、アニーの遺族に面会を申し入れたが返答はなかったと語った。特に自治体が不満を抱いているのは、2009年に世界遺産に指定されて以来、建造物を維持するために100万ユーロ(約1600万円)以上の公的資金を受け取っているにもかかわらず、遺族が立ち入りを禁止していることだ。ベルギーの条例では、5年間に50万ユーロ(約800万円)以上の助成金を受け取った施設は、政府の費用負担で、限定的な一般公開を行わなければならない。だがストックレー家は、周到に助成金の使用を基準値以下に抑えているという。

しびれを切らしたブリュッセル首都圏地域政府当局は2020年、ストックレー邸の3Dデジタル復元をブリュッセル自由大学教授のロ・ブリリオに依頼した。しかし彼のチームは邸宅への立ち入りは許可されず、ドローンを飛ばすことさえできなかった。それゆえ彼らはオリジナルの設計図や100年前の資材契約書など、膨大な数の公文書や公開記録を基に作業を行わなければならなかった。

さらに苦難はふりかかる。作業中に、ストックレー邸の相続人の弁護士から「相続人のプライバシーと知的財産権を侵害している」「作業を中止せよ」という内容の手紙が何通も届き、阻止するための訴訟まで起こされたのだ。最終的には、両者の弁護士が合意に達し、デジタル復元が許可された。3Dデジタルデータは今年1月から4月にかけてブリュッセルのArt & History Museumで開催された展覧会 「Stoclet 1911 - Restitution」で披露され、現在は市内のギャラリーで公開されている。

ベルギー政府は、ストックレー邸を公開させるために新たな施策を導入する予定だ。今年初めに可決された法律では、ユネスコ世界遺産に登録された建造物は、毎年数日間、公費による訪問を受け入れることが義務付けられる。ストックレー邸の公開を推進するブリュッセルの政治家、アン・パーソンズはこれが本格的な公開に繋がることを期待する。パーソンズは、「その場合、入場券は大人気になるでしょう。その日を楽しみにしています」と語った。(翻訳:編集部)

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