「ディーラー」と「ギャラリスト」の違いって? US版ARTnews編集長がカクテルを例に解説
最近、アメリカのエンタメ業界では、アート界を題材にしたドラマや映画が盛り上がりの兆しを見せている。Apple TV+でも、ドラマ「The Dealer」の製作が決定した。しかし、そもそも「アート・ディーラー」と「ギャラリスト」の違いは何だろう? この疑問を、US版ARTnewsの編集長、サラ・ダグラスが解説する。

最近、アメリカのエンタメ業界では、アート業界を題材にするのがブームのようだ。というのも、先日Apple TV+はドラマ『The Dealer』の製作が決まったことを発表。本作は、ジェシカ・チャステイン演じるアート・ディーラーと、アダム・ドライバー演じるアーティスト──米エンタメ系メディア、Deadlineの表現を借りれば「最も才能があり、圧倒的な」──の関係を描く物語だ。また、撮影が終了したばかりのナタリー・ポートマンとジェナ・オルテガ主演の映画『The Gallerist』は、アメリカ最大のアートフェア「アート・バーゼル・マイアミ・ビーチ」で男の死体を売ろうとする自暴自棄のギャラリストを描いている。バナナ(マウリツィオ・カテラン《コメディアン》は2019年に同フェアで発表された)が売れるなら、死体だって売れるということだろうか。
それぞれ、「アート・ディーラー」と「ギャラリスト」というアート作品の売買にかかわる職種がタイトルに冠された作品だが、そもそもディーラーとギャラリストの違いとはなんだろうか。一般的に、ディーラーはセカンダリー・マーケット(過去売買された美術品が再び取引される市場)と同時にプライマリー・マーケット(アーテイストの作品が初めて取引される市場)でも活動しているのに対し、ギャラリストは自身でギャラリーを構え、プライマリーが主戦場であることが多い。さらにギャラリストには、所属作家との密な関わりが求められ、彼らの挑戦的で前衛的な作品を展示し販売しなければならないという重要な使命が課せられている。
過去ニューヨーカー誌に掲載された2つの記事は、双方の違いを微妙なニュアンスで表現している。批評家の故ピーター・シェルダールが2004年に書いた、ニューヨークに自身の名を冠した老舗ギャラリーを所有するマリアン・グッドマンの紹介記事では、グッドマンの所属作家の1人であるトーマス・シュトルートとシェルダール自身が、記事の最後でグッドマンを「ギャラリスト」と呼んでいる。そしてシェルダールはグッドマンを次のように分析した。
「グッドマンは、自身を『ギャラリスト』と呼ぶことを好んでおり、逆に『ディーラー』と定義されることを嫌っている。その違いは何か? 彼女は正確には言えなかった。おそらく彼女もまた、自身の職業につきまとう怪しさに怯えているのだろう……『ギャラリスト』というフランス語風の言葉は、ほかの何かをも示している。大西洋や国境を超えた文化を志向する人々によって共有される湖のような、古風な国際的気質だ」
この記事の反論とも言えるのが、2年前に掲載されたライターのパトリック・ラッデン・キーフがラリー・ガゴシアンについて書いた記事だ。キーフは、「ガゴシアンは自らを『ギャラリスト』と呼ぶアート・ディーラーに懐疑的だ。彼はそれを、この職業の商業的本質を曖昧にする気取った婉曲表現と見なしている。彼はある種の率直さを常に好み、躊躇なく自分を『ディーラー』と呼ぶ」と記した。
これが今、伝えられることの全てだ。最後に両者をヒップスターが集まる隠れ家バーで提供されるカクテルに置き換えて考えてみよう。ギャラリストは古風な「コスモポリタン(国際人)」。ディーラーはNYのリキュール「リキッド・マーカンタイル(簡単に現金化できる商取引という意味)」を使った一杯、といったところだろうか。(翻訳:編集部)
from ARTnews