閉廊をめぐるギャラリストの嘆きと、若き学芸員の迷い 【認めたくない真実:アート業界のお悩み相談室】
読者のアートにまつわるお悩みや質問に、ニューヨークの敏腕アートコンサルタント、Chen & Lampert(チェン&ランパート)の2人が答えるUS版の人気企画。今回のお悩みは、志半ばでギャラリーを閉じて悲しみに暮れるギャラリストと、ワークショップへの参加を迷っている学芸員によるもの。
質問1:閉廊を伝えてもメディアが取り上げてくれないのはなぜ?
悲しみに暮れながら、2023年秋に私はギャラリーを閉じました。長年にわたってこのギャラリーが成し遂げてきたことのすべてを誇りに思い、ギャラリーが開催した主な展覧会情報とともに閉廊のお知らせを関係者にメールしました。これに対して多くのねぎらいの言葉を頂きましたが、アートメディアが閉廊を報道してくれなかったことに傷つきました。これまで開催してきた展示がすべて好評だった訳ではありませんが、私たちがギャラリー運営に注いだ努力や情熱に少しでも注目してもらえたら報われたのに、と残念でなりません。お別れの記事を書いてもらうよう依頼するのは、もう遅いでしょうか。
ああ、不遇の元ギャラリストよ。アート業界の中にはとても気まぐれで、情け容赦のない愛人のような人々も少なからず存在します。ダイヤや真珠を贈ったり、4分の1ページの広告を出稿しても、感謝されることはないばかりか、突っぱねられることもしばしば。彼らは非常に打算的なので、あなたのギャラリーがどんなに意義のある展示を行なってきたとしても、より有名なアーティストを抱えるギャラリストが現れた途端に乗り換えてしまうのです。つまり私たちが言いたいのは、費やした愛がすべて報われることは決してないということ。かなり残酷ですが。
志半ばでギャラリーを閉めることほど苦い経験はありません。ただ、ギャラリーが閉廊するのは日常茶飯事なので、被害者意識を感じる必要はないのです。あなたが長年にわたって開催してきた展覧会が批評家からあまり注目されなかったことを考えると、目新しいもの好きな独立系アートメディアが取り上げる題材をえり好みしていることや、出版社がずる賢いことは、きっと理解しているはずです。
ギャラリー経営はレストラン経営と同じように非常に過酷です。そして、最終的にはクローズに追いやられることが多いという共通点もあります。ドラマ「一流シェフのファミリーレストラン」は観ましたか? この作品はシェフという職業の闇に焦点を当てていて、観ているだけで胃が痛くなりますよね。もし、アートギャラリーを題材とした同じような番組があったらどうでしょう。あなたはイッキ観しますか? もちろん、ギャラリー経営が失敗したことに対して、「七転び八起きだよ。また起き上がればいいさ」と励ますこともできますが、ある意味ブラックな業界で新たなビジネスを再び興す必要は果たしてあるのでしょうか?
おそらくあなたは、友人や同僚が時間を割いてしたためてくれたねぎらいの言葉よりも、自分が注目されなかったことに対して未練を感じているのでしょう。しかし、ギャラリーを実りあるものにしてくれた素晴らしい思い出の数々から得られる温かい感情を大切にした方が有意義です。もし気力や熱意がまだ残っているのなら、ヘルマン・ニッチュのように、血と臓物を使った作品を展示して、お別れイベントを開催してみては? 後味の悪いお別れにはなるかもしれませんが、そもそもギャラリーの評判がさほど高くなかったのだとしたら、もはやそんなことを心配する必要はないでしょう。
質問2:学芸員の勉強会に参加する意味はある?
東欧で開催されるキュレーター集中講座に誘われました。こうしたプログラムに参加するのは経済的に厳しいですし、「学芸員アシスタント」という煉獄から抜け出せないかもしれないという焦燥感につけ込んだ短期集中講座なのではないかと身構えてしまいます。こうしたプログラムにお金を払って参加する価値はあるのか、そして、どういった内容が扱われるのかを教えてください。集中講座に参加することで何か得るものはあると思いますか?
アート好きが集まるお泊まり会に参加するか否かをお悩みなんですね。家から遠く離れた場所で、さまざまなインディペンデント・キュレーターや、見ず知らずのヨーロッパ人と寝床をともにすることを考えると不安になるでしょう。でも、講座に参加することで目を見張るような斬新な視点を得られたり、新たな友人をつくることができます。よほど人との距離の詰め方がおかしい人でない限り、あなたと同じように不安を抱える受講者は少なくないはずです。
受講料は高いかも知れませんが、芸術活動、グループワーク、油っぽい食事、カラオケ、ワインを楽しみながら語り明かした夜は一生の思い出に残るでしょう。そして勉強会終了後も、新たに仲良くなった人たちと文通したり、議論に明け暮れる旅行に出かけたりすることもできるでしょう。そんなわけで、とりあえず大好きな本を鞄に詰めて、入念にパワポを準備しましょう。そして、アート界の怪談話や自分が将来手がけるはずの華やかな展覧会の計画、そして人里離れた美術館での展示準備という冒険を楽しむためにも、何はともあれ「e-flux(過去の展覧会や芸術論文が集約されたデータベース)」のログイン情報を控えておくこと。もちろん、胃薬も忘れずに。(翻訳:編集部)
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