億万長者が集まるアートイベントで出されるワインがこの上なく不味いのはなぜ?【認めたくない真実:アート業界のお悩み相談室】

読者のアートにまつわるお悩みや質問に、ニューヨークの敏腕アートコンサルタント、Chen & Lampert(チェン&ランパート)の2人が答えるUS版の人気企画。今回は、アート界のイベントで出される安ワインに辟易しているソムリエと、病的に自己中心的な上司の言動に耐えかねている保存修復士のお悩み。

Illustration: Pamela Guest

質問1:アート界のイベントでは、なぜ不味い安ワインが出てくるのか?

私はソムリエとして、ニューヨークの一流レストランで10年以上働いています。昨年、アーティストの恋人ができて以来、ギャラリーのオープニングや美術館のガラパーティに頻繁に出席するようになりました。そこで気づいたのは、敷居が高い高級レストランの世界と共通点が多いということ。ただ、どうしても解せないのは、数億円クラスの作品が壁に飾られ、億万長者のゲストが集まるイベントなのに、そこで提供されるワインがいつも、ブドウ風味の水道水レベルの代物だということ。優れた芸術には最高レベルの敬意を払うのに、ワインに対してあまりに無頓着なのはなぜなのでしょうか。

アートイベントで不快なワイン体験をされたとのこと、お気の毒さま。でも、どのイベントでも必ず不味い安ワインが供されるのは、残念ながら偶然ではなく、アート界のテロワール(産地特性)──ドライでとげとげしい──とも密接な関わりがあるのです。あなたが口にしたのは、フローラルでエレガントなバランスのよい美酒ではなく、不機嫌なバーテンが、デカンター代わりに履き古したスニーカーに移したワンコインワインだったのかもしれません。ただ正直なところ、オープニングではタダ酒目当てにギャラリー巡りをしている若者以外、まともにワインを飲んでいる人などいません。ほとんどの人にとって、ロゼ色のグラスは薔薇色のメガネ代わり。それで目を曇らせることで、気まずいアートイベントに参加することの苦痛を和らげているのです。次回のイベントでは、不味いシャルドネを吐き出すべきかどうか悩まずに、アート界での通過儀礼だと思って飲み下してみてはどうでしょうか。

質問2:尊大で自己中心的な上司について上層部に苦情を言いたいが、どうすればいい?

私は昨年、有名な保存修復を専門とする会社にスタッフとして職を得ました。この分野では名が知られている上司と一緒に働けることにワクワクしたのですが、1カ月もすると、彼が病的に自己中心的であることが分かってきました。彼は自分のことを反論の余地のない専門家だと考えていて、ほかのスタッフの意見には一切耳を貸そうとしません。私たちだって、彼が学会やトークイベントなどで自画自賛するような繊細な仕事の訓練を受けてきた熟練の技術者なのに。しかも修復の技巧に誇りを持つあまり、そもそもの作品を生み出したアーティストたちの存在を軽視しているほどです。彼は上層部から注意を受けてしかるべきだと思いますし、このままでは組織の評判を損ないかねません。彼の言動について、私はトップに進言するつもりでいるのですが、どう行動に移せばいいでしょうか?

昔は、クラスのいじめっ子が鼻クソを飛ばしてきたり、下品なあだ名をつけてきたりしたら、先生に言えばなんとかしてくれたかもしれません。でも、それも今は昔。熟練したプロフェッショナルであるあなたは、まさか小学校時代に舞い戻ることになるとは思ってもいなかったのでしょう。でも、こうなってしまったら、カラフルな絵本ではなく、大学やウェルネス・ポッドキャストで仕入れた大人の戦略と知恵を武器に、この状況に対処するしかありません。

その上司が本当にあなたの言う通り、名の知られた存在なら、彼の上司に当たる人たちもすでに彼の問題行動について承知しているでしょう。おそらくあなたが所属している組織は、成功を収めた男性には甘いボーイズクラブで、尊大だが著名なその人物がもたらす利益が大きいので、彼の言動に問題があっても看過している可能性があります。自慢屋や派手な個性を組織が大事にするのは、世間の注目、資金、求心力などメリットがあるから。彼は、あなたが所属している組織が取り組んでいる大事な仕事を世間に知らしめてくれる、公的な顔として重要な存在なのです。ただし、その宣伝係を黙らせる必要が出てきたときは、確かに厄介です。

行動に移す前に、この自己中心的な上司について、他のチームメンバーも不満を持っているかどうか確認して共同戦線を張りましょう。そうしないと、あなたが個人的な恨みを晴らそうとしているだけだと誤解されかねません。さらに、自分の主張を裏付ける証拠を集めること。彼の言動について非難するのであれば、確たる証拠が必要です。言質を取って記録に残しましょう。それでももし、上層部があなたの苦情をもみ消そうとするなら、次善の策として辞めるという選択肢もあるでしょう。競争を勝ち抜いて手に入れた、業界内でも一目置かれるこのポストを失うのは辛いかもしれません。でも、自分のメンタルヘルスを健やかに保つことは、誰かが遺したアート作品(たとえそれが偉大なる芸術家の作品であっても)の保存よりも優先すべきなのは間違いありません。(翻訳:野澤朋代)

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