多額の寄付でルーブル、メトロポリタン美術館に影響を与えたコレクター、ミシェル・ダビッド=ワイルが死去
パリのルーブル美術館とニューヨークのメトロポリタン美術館を大きく変貌させる寄付を行なったコレクター、ミシェル・ダビッド=ワイルが死去した。享年89歳。多額の資金と美術品を寄付した同氏について、ルーブル美術館は追悼の声明で6月17日にニューヨークで亡くなったと発表している。
ダビッド=ワイルは、各国の富裕層を顧客に持つ銀行家で、大きな影響力を持つ人物だった。国際的な金融グループ、ラザード社の会長のほか、エビアンやオイコスなどのブランドを傘下に持つ食品・飲料会社ダノンの副会長も務めている。
同氏は、妻のエレーヌとともに17~19世紀のフランス美術の購入に力を注ぎ、1991年から2014年まで毎年、米国ARTnewsの「トップ200コレクター」に選ばれた。コレクションの内容はほとんど公開されていないが、97年のヴァニティ・フェア誌の記事によると、ニューヨークの自宅には、ジャン=バティスト・カミーユ・コロー、パブロ・ピカソ、ジョアン・ミロ、ジャン=オノレ・フラゴナールなど数多くの絵画が飾られていたという。
この記事の中で同氏はこう語っている。「他人に任せず、全て自分で選んでいる。アートは私という存在の本質的な部分だから」
ダビッド=ワイルは、1932年、パリの銀行家の家庭に生まれた。彼の家系はフランス貴族の血を引いているわけではなく、主に米国で財を成している。しかし、第2次世界大戦中、ロスチャイルド家など、他のフランス在住ユダヤ人コレクターと同様、所有していた美術品はナチスに略奪された。
終戦後、美術品の多くは返却されたが、戦時中の体験は人生の中で大きな出来事だとは思っていないと本人は述べている。
収集品については公にしなかった一方で、数多くの慈善活動を行い、これについては広く知られていた。中でも同氏が理事を務めていたメトロポリタン美術館は、特に大きな支援を受けている。
1993年にはメトロポリタン美術館の中世美術部門へ大型の寄付が行われた。同美術館はこれに敬意を表し、この部門のトップキュレーターのポジションに彼の名前を冠している。その後、中世美術の分館であるクロイスターズ美術館の修復費用として、妻エレーヌとともに100万ドルを寄付した。
一方、ルーブル美術館では、17〜18世紀作品の展示室の修復に資金を提供している。また、フラゴナールの《Le Taureau blanc à l'étable(厩舎の白牛)》(1765年頃)や、最近ではシエナのオッセルバンツァ聖堂の画家が聖ヨセフの夢を描いた絵画(1450年頃)などの美術品を同館に寄贈。こうした慈善活動はフランスの美術界でも広く知られ、同国から芸術文化勲章を受勲している。
ダビッド=ワイルは、かつてメトロポリタン美術館のプレスリリースでこう述べていた。「過去の芸術作品は、いま私たちが生きている世界を理解し、紐解いていく基礎になるものだと強く思います」(翻訳:清水玲奈)
※本記事は、米国版ARTnewsに2022年6月20日に掲載されました。元記事はこちら。