トランプ政権を憲法違反で提訴。博物館・図書館サービス機構等の廃止に州司法長官らが異議

アメリカのドナルド・トランプ大統領やイーロン・マスク率いる政府効率省(DOGE)が、連邦政府機関の予算・職員削減を矢継ぎ早に打ち出している。そんな中、文化面での財政支援停止などに異議を唱える訴訟が、ニューヨーク州司法長官らによって起こされた。

4月2日、ホワイトハウスのローズガーデンで開かれた「Make America Wealthy Again」で演説するトランプ大統領。Photo: Chip Somodevilla/Getty Images
4月2日、ホワイトハウスのローズガーデンで開かれた「Make America Wealthy Again」で演説するトランプ大統領。Photo: Chip Somodevilla/Getty Images

ニューヨーク州司法長官のレティシア・ジェームズが、3つのアメリカ合衆国連邦政府機関(博物館・図書館サービス機構、マイノリティ企業開発局、連邦調停斡旋局)を事実上閉鎖する大統領令に異議を唱え、20人の州司法長官とともに連邦裁判所への提訴を行った。

ジェームズらは、この大統領令は連邦議会によって設立された機関を立法手続きを経ずに一方的に廃止しようとするもので、憲法と連邦行政手続法の両方に違反していると主張。また、連邦政府の補助金に関する法律を、議会の承認なしに覆そうとすることにも異議を唱えている。

訴訟の中心となる博物館・図書館サービス機構(IMLS)は、昨年1年間で1億8000万ドル(約263億円)の補助金を全米50州に分配。たとえばニューヨーク州は、識字率向上プログラムやインターネット利用、職員研修、州図書館職員の3分の2に対する給与を支援するための補助金約800万ドル(約12億円)を受け取っている。このように、目立たないが重要性の高いサービスを提供するIMLSだが、大統領令を受けてほとんどの職員が休職扱いとなり、数百にのぼる補助金が凍結された。

ジェームズはプレスリリースの中で、大統領令は「脆弱な地域社会、中小企業、そして子どもたちの教育に対する新たな攻撃」であり、これらの機関の閉鎖が公的機関全体に与える影響を懸念するとして次のように強調した。「解体されようとしている機関は、全米の労働者を支援し、マイノリティが経営する企業への支援を提供し、子どもたちが生涯にわたって学習に取り組むことを可能にする図書館や博物館の運営を続けるためのものです」

IMLS以外にも、マイノリティが経営する企業の成長促進を支えるマイノリティ企業開発局(MBDA)と、労働争議の解決を支援する連邦調停斡旋局(FMCS)が削減の対象となっている。MBDAのスタッフは40人から5人にまで削減され、同局による財政支援活動を停止したと報じられた。また、FMCSは200人いたスタッフが15人以下になり、組合員労働者を支援する中核的なプログラムの打ち切りを始めている。

ニューヨーク州図書館司書のローレン・ムーアは、図書館への影響は壊滅的だとしてこう訴えた。「IMLSによる800万ドル(約12億円)の財政支援によって、55人の州立図書館職員と、州全体の地域図書館コミュニティや住民へのサービス提供に関する重要なプログラムが維持されています。図書館は単なる建物ではありません。知識や文化、地域社会の中心となる拠点として活発に活動しています」

ニューヨーク州司法長官のジェームズは、ロードアイランド州およびハワイ州の州司法長官と共同で訴訟を起こした。また、カリフォルニア州、マサチューセッツ州、ニュージャージー州、ワシントン州、イリノイ州、オレゴン州なども提訴に参加している。ジェームズはこれ以前にも、トランプ政権が教育、医療、労働者保護サービスへの財政支援を縮小したことに対する提訴を行い、今月初めにはニューヨーク州への医療費補助110億ドル(1兆6000億円)の削減を阻止する一時的な裁判所命令を勝ち取っている。

今回の訴訟によって、民主党支持者が多い州の司法長官と行政権強化に躍起になっているトランプ政権との法廷対決がまた起きそうだ。ジェームズは訴訟に踏み切った理由について、「これは予算削減だけの問題ではありません。地域社会を一つにまとめていく組織を守るためなのです」と力を込めた。(翻訳:石井佳子)

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