サルバトール・ダリの未完映画がグーグルの最新動画生成AIでよみがえる! 予告編をラスベガスで公開

4月9日、グーグルが動画生成AIツールの最新バージョン「Veo 2」のデモを行った。AIによる超リアル、あるいは超現実的な映像を目にすることが多くなっているが、映画の予告編を使ったこのデモのシュールさは、その脚本からきているようだ。

グーグルの最新動画生成AIツールVeo 2を用いてサルバドール・ダリの未完の脚本を映画化した『Giraffes on Horseback Salad』予告編より。Photo Screenshot/Dali Museum and Goodby Silverstein & Partners

昨年12月、グーグルが動画生成AIツールの最新バージョン「Veo 2」を間もなくリリースすると発表。最新版では、現実世界の物理現象や人の動き・表情のニュアンスへの理解度を高めることでよりリアルな表現を可能とし、指が5本以上あるような意図しないハルシネーション(*1)の減少を実現している。

*1 AIが事実に基づかない情報、誤認や論理の矛盾を含む事象を生成する現象。

4月9日、このVeo 2のデモンストレーションが、ラスベガスで11日まで開催中のグーグル・クラウド・ネクスト・カンファレンスで披露された。そこで使われたのが、新作映画『Giraffes on Horseback Salad(馬の背のサラダに乗ったキリン)』の予告編。フロリダ州セントピーターズバーグのダリ美術館とグッドビー・シルバースタイン&パートナーズが制作したもので、サルバドール・ダリが手がけた未完の脚本に基づいている。

元の脚本は1937年、当時MGMスタジオ専属だった人気コメディグループ、マルクス兄弟の映画用にハーポ・マルクス(マルクス兄弟の次男)と共同で制作された。しかしMGM共同創設者でプロデューサーのルイス・B・メイヤーがこの脚本を気に入らず、企画は中止されている。

『Giraffes on Horseback Salad』のプレスリリースによると、脚本に描かれているのは「夢が現実となった世界に住む女性と恋に落ちる男の物語」。男は「活気に満ちて混沌とし、無限に広がる彼女の世界に引き込まれるが、2人の世界が融合し始めると、イマジネーションと破壊の境界線が曖昧になり、対立が生まれる」という。

同じ脚本に基づく企画は以前にもあり、2019年に脚本家のジョシュ・フランク、イラストレーターのマヌエラ・ペルテガ、コメディアンのティム・ハイデッカーが共同でグラフィック・ノベルを発表。フランクはNPR(アメリカの公共ラジオ)に対し、「クレイジーで、シュールで、とても難解」な元の脚本は未完成だったようだと述べ、プロダクションノートには「ここにマルクス・ブラザーズのお約束のギャグを入れてください」とだけ書かれていたと明かしている。

ダリ美術館も昨年、AI技術を取り入れた企画展示を行っている。同美術館はグッドビー・シルバースタイン&パートナーズと共同で、ダリの代表作の1つ、《ロブスター・テレフォン》(*2)を模した電話機「Ask Dali(ダリに聞け)」を制作。来場者は、生成AIを用いた電話機を通じて、ダリと「会話」することができた。

*2 黒い固定電話の受話器部分に赤いロブスターが取り付けられた作品。

同美術館のCOO兼副館長、キャシー・グリーフは、US版ARTnewsの取材にこう答えている。

「もし、ダリの生前にAIがあったら、本人が絶対このテクノロジーで遊んでいたと思います。AIツールを使うのは、ダリの精神を生かすことに他なりません。作品を保存するだけでなく、そのレガシーを長く伝えることが私たちの使命なのです」

一方、グッドビー・シルバースタイン&パートナーズ共同会長のジェフ・グッドビーはプレスリリースで、この新作はダリの作品を「複製」するものではなく、「再び目覚めさせる」ものだと表現。グッドビーはさらに、「私たちがこれまで手がけた中でも、創作として最高に刺激的な経験の1つ」だとしている。

おそらくダリは、マルクス兄弟のお家芸であるドタバタ喜劇を意図していただろう。しかし、公開された1分間の予告編にそうした要素はない。この「映画」の予告編の大部分は、現在の生成AIにありがちな過剰な密度の映像で、部分部分がスローモーションでつなぎ合わされたものだ。ポイントは、そこに「サルバドール・ダリの声」によるナレーションが付けられていることだろう。(翻訳:石井佳子)

『Giraffes on Horseback Salad』予告編

from ARTnews

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