クリプトパンクスの取引量が957%に爆増! あからさまなインサイダー疑惑に揺れるNFT界
世界最大級のNFTカンファレンス、NFT.NYCが、6月20日〜23日にニューヨークで行われた。そのNFT.NYCで話題になったのは、あるインサイダー取引疑惑だ。「アルファグループ」が関与しているとも言われるこの疑惑は、どんな経緯で持ち上がったのだろうか。
NFT.NYCの開幕直前、NFTアート界に激震が走った。6930万ドル(当時の価格で約75億円)という記録的な金額で落札されたビープルの《Everydays: the First 5000 days(エブリデイズ:最初の5000日)》のオークションを手がけたノア・デイビスが、クリスティーズを離れ、PFP NFT(*1)コレクション「CryptoPunks(クリプトパンクス)」に移ると発表したのだ。クリプトパンクスはこの3月、やはりNFTコレクションの「Bored Ape Yacht Club(ボアード・エイプ・ヨット・クラブ)」を運営するユガラボに買収されている。
*1 PFP NFTとはプロフィール画像NFTの意味。ボアード・エイプ・ヨット・クラブやクリプトパンクスには、どちらも1万点の異なるデザインのキャラクターが存在し、それぞれの画像は「エイプ」「パンク」と呼ばれる。
その一件をふまえて、NFT.NYCでは、瞬く間にインサイダー取引の噂が広まった。というのはデイビスの移籍発表前24時間のクリプトパンクスの取引量が急増し、それ以前の30日間平均比で957%を超える大幅増になったからだ。
NFT関連のデータベースサイト、クリプトスラム!で公開されている取引データによると、クリプトパンクスは6月18日に115件の取引が行われ、取引総額は812万614ドルに上った。しかし、過去3カ月間、1日あたりの取引が34件を超えたことはなく、ほとんどが一桁台からせいぜい十数件だった。取引総額も1日670万ドルが上限で、大半は50万ドルから200万ドルの範囲に収まっている。
デイビスによる発表の数時間前にパンクを買い漁っていた中には、ユガラボに投資をしているゲイリー・ヴェイナチャックや、この分野で大きな影響力を持ち、詐欺や不正取引などで繰り返し告発されているビーニーマキシのような大物バイヤーが名を連ねている。
ヴェイナチャックはツイッターで、事前情報を入手していたという疑惑を否定。なぜ18日にパンクを購入したのかを問われた彼は、「特別な読みがあったわけじゃない。いつも自分が買える時や買いたい時に購入してるだけ」と回答している。
一方、誰かが一部に情報をリークする不正をしたに違いないと、最近逮捕されたネイト・チャステインを引き合いに出して騒いでいる人々もいる。チャステインは、世界最大のNFTプラットフォームの1つ、オープンシー在職中に行ったNFT取引に関し、6月初めに通信詐欺とマネーロンダリングの疑いでFBIに逮捕・起訴されている。
しかし、現時点では全てが憶測の域を出ない。デイビス自身や他の誰かが、発表間近のクリプトパンクスへの移籍情報を漏らしたという証拠はないのだ。とはいえ、NFTコミュニティの一部は購入が活発化したタイミングについて不信感を持っており、「アルファグループ」による市場操作説も出ている。
最先端の情報が行き交う「アルファグループ」
NFTコミュニティメンバーのWazzCrypto(ワズクリプト)は、デイビスの移籍発表前に起きた取引量の急上昇に関する調査スレッドを真っ先に公開し、詳細をプライベートメッセージで説明している。
「アルファグループとは、テレグラムやディスコードといったアプリによるプライベートチャットのグループのことで、誰かに招待されたり、特定のNFTを持っていたりしないとアクセスできない。こうしたチャット参加者には大物コレクターやインフルエンサーが多い。だから”アルファ(第1級)”というわけ」とワズクリプトはARTnewsに回答し、こう付け加えた。「特定の情報は他のどこよりも先にアルファグループで確実にリークされる。誰かが情報を漏らし、さらにサブグループや最終的には一般に広がっていき、市場に弾みをつけるんだ」
一言でアルファグループと言っても、容易にアクセス可能なものから伝説的なものまで様々だ。アクセスしやすいグループには、NFTインフルエンサーのGマネーやケビン・ローズが各々始めたアドミットワンやプルーフコレクティブなどがある。どちらも限定版NFTを所有することでアクセスでき、プライベートディスコードサーバーを教えてもらえる。そして上手くいけば、選ばれた人にのみ有益な情報を提供するネットワークを利用しているインフルエンサーやトレーダーにたどり着ける。
一方、NFTコミュニティには、今回の急上昇には別の要因があるとする声もある。たとえば、パンクの所有者であるファニー・ラクバイは、ARTnewsにこう語った。「クリプトパンクスのエコシステムの一員になるには絶好のタイミングだったでしょう。最低落札価格が数カ月前のほぼ半分で、ETH(イーサリアム)の対ドルレートも良かったから。ただ、コレクターにとって参入の良い機会だったとはいえ、そう簡単にいくものではありません。単なる偶然じゃないかと思います。とても大きな偶然ですけどね」
ラクバイは、今回の一件をそれほど懸念していないとも言う。NFT.NYCで会ったパンク所有者たちが、デイビスがリーダーになることに満足していたからだ。
「別の誰かを選ぶこともできたでしょう。ラッパーとかね」。ラクバイは、人気アーティストのファレル・ウィリアムスが、最近Doodles(ドゥードゥルズ)NFTプロジェクト(*2)の最高ブランド責任者に就任したことに触れながら語った。「クリスティーズでNFTの専門家だったノアが選ばれたのは、なによりだと思います」
*2 Doodlesは1万体からなるPFP NFTコレクション。
(翻訳:山越紀子)
※本記事は、米国版ARTnewsに2022年6月24日に掲載されました。元記事はこちら。
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