2025年度ターナー賞のファイナリストが決定。多様な候補者は「今日の芸術実践の幅広さを反映」

テート・ブリテンは4月23日、2025年度のターナー賞の受賞候補者4人を発表した。その顔ぶれは、年齢は史上最年少となる27歳から59歳まで、再利用した布を使った作品や、移民・難民問題をテーマに制作するアーティストなど多様なものとなった。

ターナー賞のファイナリストに選ばれたニーナ・カル。Photo: Courtesy the artist

今年度のターナー賞の受賞候補者が4月23日、テート・ブリテンのクロア・ギャラリーで発表された。候補者は、スコットランド出身の彫刻家ニーナ・カル、イラク系イギリス人画家モハメド・サミ、ピーターバラ出身のレネ・マティックと、ロンドンを拠点とする韓国系カナダ人アーティストのザディ・シャの4人。

同賞は、1984年に画家ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー(1775-1851)にちなんで設立されたイギリス最高峰の美術賞で、毎年、この1年間の展覧会で優れた作品を発表したイギリス人もしくはイギリス在住のアーティストが選ばれる。候補者にはそれぞれ1万ポンド(約190万円)が贈られ、優勝者にはさらに2万5000ポンド(約475万円)が授与される。今回の審査員は、ロンドン・ナショナル・ギャラリーのモダン・コンテンポラリー・プロジェクトのアソシエイト・キュレーターであるプリエシュ・ミストリー、フィッツウィリアム美術館のモダン・コンテンポラリー・アートのシニア・キュレーターであるハドバ・ラシド、リバプール・ビエンナーレディレクターのサム・ラッキーらが務めた。

テート・ブリテンのディレクターでターナー賞審査員団の議長であるアレックス・ファークハーソンは、4人のファイナリストを発表した後、「ターナー賞候補者を発表することは光栄です。これは今日の芸術実践の幅広さを反映しています。それぞれのアーティストは、個人的な経験と独自の表現を通して、人々に新たな視点を提供しています。今年はターナーの生誕250周年。彼の革新の精神が今日の現代イギリス美術においてもなお生き続けていることを嬉しく思います」とスピーチ。「美術の言語は過去250年間で飛躍的に拡大しました」と付け加えた

レネ・マティック。Photo: Diana Pfammatter; Courtesy the Artist and Arcadia Missa, London
レネ・マティック 《AS OPPOSED TO THE TRUTH》Installation view, CCA Berlin,(2024) Photo: Diana Pfammatter/CCA Berlin.
ニーナ・カル《Hanging Sculpture 1 to 10,》 installation view(2024) Photo: courtesy of Manifesta 15 Barcelona Metropolitana. Photo credit: Ivan Erofeev.
モハメド・サミ。 Photo: Sarel Jansen
モハメド・サミ 《After the Storm》Blenheim Art Foundation, Blenheim Palace, Woodstock, 9 July–6 October(2024) Photo: Tom Lindboe
ザディ・シャ Photo: Charles Duprat. Courtesy Thaddaeus Ropac gallery.
ザディ・シャとベニト・マヨール・バレホ《Moonlit Confessions Across Deep Sea Echoes: Your Ancestors Are Whales, and Earth Remembers Everything》(2025) Photo: Courtesy of Sharjah Art Foundation. Photo: Danko Stjepanovic

候補者の一人であるレネ・マティックは現在27歳。1995年に30歳でダミアン・ハーストが解体された牛をホルマリン漬けにした作品《Mother and Child Divided(母と子の分断)》で候補者入りした記録を塗り替え、史上最年少となった。マティックはベルリンのCCAでの個展「AS OPPOSED TO THE TRUTH」で選出された。彼女自身の家族や友人を捉えた非常に個人的な写真と、音、バナー、インスタレーションを組み合わせた同展のテーマについて、マティックは、「互いに支え合い、気遣い、脆弱性と共に生きることを学ぶ人々について」だと説明した。審査員のサム・ラッキーは記者会見で、マティックの作品を「人種、ジェンダー、階級、国家を探求している」と評した。

1966年にグラスゴーで生まれたニーナ・カルは、2024年バルセロナで開催されたマニフェスタ15で発表されたインスタレーション《Hanging Sculpture》とリバプールのウォーカー・アート・ギャラリーでの「Conversations」展が評価された。カルは非言語性自閉症を持ち、リサイクルされた鮮やかな布地などで制作する彫刻と、大きな渦巻く抽象的なドローイングを制作している。審査員団は、カルの「作品の素材や色、繰り返されるジェスチャーに対する独自の支配力と、展示空間に対する非常に繊細な反応」を称賛した。

1984年生まれのモハメド・サミはバグダッド出身で、イラク戦争中に難民となった経験を持つ。彼はブレナム宮殿での展覧会「After the Storm」で候補に選ばれた。審査員団は彼の「紛争と亡命をテーマにした力強い表現に感銘を受けた」と述べている。

ザディ・シャはシャルジャ・ビエンナーレ16でベニト・マヨール・バレホと共同制作したインスタレーション《Moonlit Confessions Across Deep Sea Echoes: Your Ancestors Are Whales, and Earth Remembers Everything》が評価された。彼女の作品は韓国のシャーマニズムと民話を用いて、母系の知識とディアスポラのアイデンティティを探求することで知られており、その表現方法もインスタレーション、パフォーマンス、音、テキスタイル、絵画と多岐にわたる。

受賞候補者が華々しく発表される一方で、多くの美術批評家は、ここ10年ほどでターナー賞はその輝きを失い、各メディアの見出しを飾って論争を巻き起こし、何が芸術とみなされるべきかを真に問うようなかつての姿とは程遠いと批判している

例えば、前述のハーストのホルマリン漬けの牛や、1999年に大きな話題を呼んだ、トレイシー・エミンが4日間を過ごしたベッドをそのまま展示した《マイ・ベッド》(だがこの年はスティーブ・マックイーンが受賞した)を考えてみよう。好むと好まざるにかかわらず、これらの作品はイギリス美術に関する公の議論を巻き起こし、両アーティストをスターダムに押し上げた。同じことは最近の受賞者たちには言えず、その多くは芸術界の忘却の中に消えている。

同賞の優勝者は12月9日に2025年のイギリス文化都市に選ばれたブラッドフォードで行われる式典で発表され、彼らの作品はブラッドフォードのカートライト・ホール・アート・ギャラリーで開催される展覧会で展示される。

US版ARTnewsは記者会見後、ブラッドフォード・文化都市2025のクリエイティブ・ディレクター、シャナズ・グルザルに、今年の候補者は安全な選択だと思うか、または現代美術に関する公の議論を喚起する可能性があるかと尋ねた。すると次の返答が返ってきた。

「アーティスト自身や、彼らの作品や経験が持つ国際性、そして彼らの作品は誰に語りかけているのか。対話が生まれる核心はそこにあり、観客はこれに反応するでしょう」(翻訳:編集部)

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