網膜レーザー照射でしか見えない色を科学者が新発見! 「色の解放」を目指すアーティストが塗料に再現
カリフォルニア大学バークレー校の研究チームが、人類がこれまで認識できなかった色「olo(オロ)」を発見した。レーザーを網膜に照射しなければ見ることはできないが、イギリスのアーティストが塗料に再現できたと主張、約191万円で販売している。

人間がこれまで認識できなかった色が、カリフォルニア大学バークレー校(UCバークレー)の研究によって発見された。ただし、新たに発見されたこの色は絵具を混ぜ合わせて作ることはできず、特別なレーザーを目に照射して、網膜細胞を直接刺激しなければ認識できないという。
5人の被験者がUCバークレーの研究室で見た新色は「olo(オロ)」と名付けられ、ターコイズや青緑に近い色だという。オロという名前は、網膜にある3つの光受容体である錐体細胞を表す2進数の「010」に由来している。この3種類の錐体細胞とは、青の波長を感知する短錐体、緑の波長を感知する中錐体、赤の波長を感知する長錐体を指す。これらの波長が網膜の錐体細胞によって検出され、その刺激が脳に伝わることで、人間は光を色として認識する。すなわち、自然界に存在する光では、どれかひとつの細胞だけを刺激することはできないのだ。
こうした事実を受け、研究者たちは、中錐体細胞だけを刺激した場合に見える緑色はどんな色なのだろうか、という問いのもと研究を行った。その結果、4月18日に発表された研究論文に記されている通り、「中錐体を単独で活性化しようとすると、人間が認知できる自然な色域を超えた色が引き出される」ことが明らかになったという。
「オロ」を見るためにはまず、特殊な画像処理システムを用いて被験者の目と錐体細胞をマッピングしなければならない。その後、『オズの魔法使い』にちなんで名付けられた「オズ」という装置が発するレーザーを網膜領域に当て、中錐体に到達すると、レーザーは緑色をした小さな光のパルスを発射する。これらの過程を経た被験者たちは、これまで見たことのない青緑色を見たと研究者たちに報告した。このブレイクスルーを受け、オズを開発したジェームズ・フォンは次のような声明を発表している。
「私たちは光受容細胞をトラッキングし、この細胞を刺激するための高精度なシステムを開発しました。これによって、人間の色覚の性質に関する謎を解明し、これまで不可能だった規模で人間の網膜を研究する手段ができたのです」
今回の発見により、わたしたちが目の前に広がる景色や色をどのように認識しているかを解明するだけでなく、眼の疾患や色覚異常の理解を深めるために役立つのではないかと研究者たちは期待する。
この発見を受け、イギリスのアーティスト、スチュアート・センプルは、「オロ」を再現した塗料「YOLO*」を開発したと発表。自身のウェブサイト上で、150ミリリットルのボトルを1万ポンド(約191万円)で販売している(アーティストであれば29.99ポンド[約5700円]で入手可能)。センプルはこれまで、アニッシュ・カプーアが独占使用権を購入したベンタブラックよりも黒い「Black 3.0」を作成したり、ティファニーが色彩商標登録しているティファニーブルーを模した「TIFF」といった色を過去に作ってきた。UCバークレーの研究者たちは、日常生活において「オロ」を見ることはできないと主張しているが、センプルは「YOLO」についてガーディアン紙にこう語っている。
*人生は一度きり(You Only Live Once)の頭文字を取ったスラング
「色は誰もが自由に使えるべきだと私は常に考えていました。企業が商標登録している色や科学者が独占権を主張している色、あるいは個人にライセンス供与されている色を解放するために、私は長年にわたって戦ってきたのです」
これを受け、オロの発見者の一人であるUCバークレー教授のオースティン・ルーダは、センプルが再現した「YOLO」の購入を検討しているというが、実際の「オロ」と比べると見劣りしてしまうだろうと語っている。またルーダ自身、レーザーを照射することで見られる色を、メロンリキュールのミドリとビターオレンジの皮から作られたブルー・キュラソーを混ぜて再現を試みているという。
「お世辞にも味はいいとは言えませんが、飲めば飲むほどオロに見えてきますよ」