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ウフィツィ美術館がNFTを販売するも利益なし。イタリア政府が待ったをかける

イタリア・ルネサンス期の古典絵画を基にしたNFTの販売に、イタリア政府が待ったをかけた。この決定の前に起きていたのは、フィレンツェのウフィツィ美術館がミケランジェロの《聖家族》(1505-06)のNFTを販売したものの、美術館の収入は微々たるものだったという一件だ。

ミケランジェロ《聖家族》(1505-06) The Uffizi

アートニュースペーパーが報じるところによると、イタリアの美術館総局長マッシモ・オザンナ付きの広報担当者は、同紙に対し「この問題は複雑かつ規制が存在しないため、一時的にNFTに関する契約を控えるよう所属機関に要請した。基本的な意図は、不公正な契約を防止することにある」と話している。

ウフィツィ美術館などイタリアの4つの美術館は、NFT制作会社チネッロ(Cinello)と5年間の契約を締結。チネッロは、美術館や文化施設向けのデジタル所有権サービスという、ニッチな市場の開拓を目指す新興企業の1つだ。同社はこれまで、レオナルド・ダ・ヴィンチの《音楽家の肖像》(1490)やアメデオ・モディリアーニの《Testa di Giovane Donna(若い女の頭部)》(1915)といった作品のNFTを制作している。

チネッロと美術館との提携が始まったのは、コロナ禍で世界中の文化施設が深刻な財政難に見舞われていた時期だ。その頃、苦境を乗り切るためには、急成長するNFT市場を取り込む必要があるという議論が高まっていた。

2月にチネッロによるNFT販売が発表された時、ミラノのボッコーニ大学のグイド・グエルツォーニ教授はアートネット・ニュースにこう述べている。「コロナ禍の1年間で、ヨーロッパの美術館の来館者は7割減、収入も7~8割減った。美術館が生き残るためには発想の転換が必要だ」

しかし、1年前から比べるとNFT市場は暴落状態。一方で、ヨーロッパでは夏の観光客数が回復していることから、このシナリオは当てはまらなくなっているかもしれない。

《聖家族》のNFTは14万ユーロ(17万ドル)で売れたが、利益をチネッロと分け合ったウフィツィ美術館の売り上げは7万ユーロにとどまった。しかも、ウフィツィの広報担当者がアートニュースペーパーに明らかにしたところによれば、チネッロはこれ以外に制作費10万ユーロを得ているという。

チネッロとの間で既に結ばれた契約は有効だが、政府が改めて通達を行うまで、新たな契約締結は停止される。(翻訳:清水玲奈)

※本記事は、米国版ARTnewsに2022年7月8日に掲載されました。元記事はこちら

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