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フェルナン・レジェの知られざる作品が、100年以上の時を経て別作品の裏から発見される

ピカソやブラックらに並ぶキュビスムの画家と言われることもあるフランス人アーティスト、フェルナン・レジェ(Fernand Leger)の絵画が、修復スタジオの専門家らによって別作品の裏から見つかった。

フェルナン・レジェの《パリ祭(Bastille Day)》を掲げるオランダ・ハーグにある美術品修復スタジオ、レディヴィヴス(Redivivus)の専門家ら。Photo by Francois Walschaerts/AFP Via Getty Images

フランス通信社(Agence France-Presse)によると、この作品は「Smoke over the Rooftops(屋根の上の煙)」(1911-12)シリーズのうちの一作品で、レジェが同年後半に描いた《パリ祭(Bastille Day)》のキャンバスの裏に隠されていたという。同作品の修復作業を担当していたオランダ・ハーグにある美術品修復スタジオのレディヴィヴス(Redivivus)が発見した。

ハーグの専門家によると、今回発見された作品は、レジェが自身のアトリエからノートルダム寺院に向かって見えるパリのスカイラインを、煙立つ煙突越しに描いた形成期のシリーズに属するという。同シリーズの作品は、これまで7点しか現存していないと考えられてきた。

《パリ祭》は、今から約110年前にレジェが友人のマルク・デュシェーヌの結婚に際して贈った作品。しかし、デュシェーヌは第一次世界大戦で戦死し、遺族はその悲しみから、この絵を飾ることができなかった。その後1999年に、本作品はデュシェーヌの相続人によってオランダのトリトンコレクション財団に売却されたため、美術史家にも知られることなく、デュシェーヌの遺品コレクションに埋没していた。

海運王であるウィレム・コーディアが設立したトリトン・コレクション財団(Triton Collection Foundation)は、近代美術を中心に膨大なコレクションを有している。その中にはモネ、ピカソ、ゴッホなどの作品も含まれる。

《パリ祭》は現在も同財団が所有し、これまで多くの展覧会に出品されてきた。つまり、今回見つかった裏側に隠れていた作品は、その間、誰の目にも触れることなくそこに存在していたということになる。

しかし2016年、所有者は、以前からこの絵の謎の解明に意欲的だったスタジオ・レディヴィヴスのディレクター、グウェンドリン・ボーヴ・ジョーンズに詳細な調査を依頼した。保存修復師は当初、キャンバスの裏に描かれたものは損傷が激しく、修復は困難と見ていた。しかし、ボーヴ・ジョーンズが厚く糊付けされた背板を慎重に剥がし、高度な画像処理技術を用いて再現を試みたところ、立ち込める煙、とがったスカイライン、煙突の形がはっきりと浮かび上がった。レジェ作品の特徴である重厚な雰囲気から一転、カラフルで抽象的な要素が随所に見られる作品だった。

ボーヴ・ジョーンズは今回の発見に際し、次のように語っている。

「この絵が隠されていたことは、もちろん興味深いことですが、私たちが発見したのは、この絵が彼の人生の中で果たした役割なのです」

※本記事は、米国版ARTnewsに2022年10月12日に掲載されました。元記事はこちら

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