フランク・ロイド・ライトの傑作建築が予算削減で公開中止の危機。世界遺産認定抹消の可能性も
ロサンゼルスにあるフランク・ロイド・ライトの傑作「ホリーホック・ハウス」が市による予算削減により閉鎖の危機にさらされ、さらにユネスコ世界遺産の認定が抹消される可能性が出ている。

ロサンゼルス市が発表した予算削減案により、同市イースト・ハリウッドにあるフランク・ロイド・ライトの名建築「ホリーホック・ハウス」の一般公開が中止され、さらにユネスコ世界遺産の登録が抹消される可能性が出ている。
アートネットが伝えるところによると4月21日、カーレン・バス市長は139億ドル(約2兆円)の今年度予算を発表した。その中にはロサンゼルス山火事による税収の減少や、賠償金の支払い、ロサンゼルス山火事の復興にかかった費用10億ドル(1500億円)の赤字を埋めることも含まれている。さらに市長は、赤字補填のため市の文化局が運営するホリーホック・ハウスの常勤1人を含む1600人以上の職員を削減する計画も明らかにした。現在、同施設は2人の常勤スタッフによって運営されており、ツアーの案内や建物のメンテナンスを監督している。
ホリーホック・ハウスは石油王の娘アライン・バーンズドールの依頼を受けて、ライトが1919年から1921年にかけて建設した。 当初は、バーンズドールが没頭していた演劇界の人々を支援するための住居、劇場、店舗を備えた複合施設として計画されたが、バーンズドールとライトの財政的、芸術的な相違により、計画は次第に縮小されていった。 最終的に建設されたのは、母屋と2つの副住居のみだった。
同施設は、屋内と屋外の境界が曖昧になるような建物を望んだバーンズドールのために、そのような特徴を持つ古代マヤ、アステカ、エジプトの建築様式を取り入れ、ホリーホック(タチアオイ)の花が好きなバーンズドールのために、この花をモチーフにした幾何学模様を屋根の装飾品からステンドグラスの窓まで随所に織り込んだ。だが結局バーンズドールはこのプロジェクトに難色を示し、一度も住まずに1927年に市に寄贈。ライトが手掛けた最初のポスト・プレーリー建築としてホリーホック・ハウスは一般公開された。近年同施設は2回の大規模な工事を経て、2015年と2022年に再オープンしている。

今回の予算削減案について、ロサンゼルス市文化局のゼネラルマネージャーであるダニエル・タリカはアートニュースの取材に対して、「ホリーホック・ハウスの常勤のポジションが削減されることは、運営、保全、メンテナンス、コレクションケアに悪影響を及ぼすでしょう」と警鐘を鳴らした。
さらに、この状況が続くとホリーホック・ハウスは2019年に定められた世界遺産認定が危うくなる可能性があるという。 同施設が世界遺産に指定された際には、管理が徹底されて一般に公開され続けるよう、4人の常勤スタッフを置くことが明確に約束されていた。タリカによると、こうした基本的な人員配置の約束が反故にされることになるため、文化局は市議会に対して最終予算で3人の常勤職員を復活させるよう求めている。世界遺産登録が抹消されることは稀なことだが、実際2021年にリバプールの歴史的な水辺地域では開発が進みすぎたと判断され、登録が抹消されている。
フランク・ロイド・ライトの建築物の保護を監督する団体であるフランク・ロイド・ライト建築物保存協会は、人員削減の可能性について「深く懸念している」と述べ、次のようにコメントした。
「現在の予算危機以前から、私たちはこの建物の適切な人員配置を積極的に主張してきました。山火事を経て、今、世界中の目がロサンゼルス市に注がれています。 私たちは、彼らがこの世界的文化遺産を適切に管理することを選択することを願っています」