熟練ボランティア夫婦が大発見! ローマ帝国北限、ハドリアヌスの長城で「勝利の女神」のレリーフが出土
イギリス・ノーサンバーランド州のヴィンドランダ遺跡で、発掘調査にボランティアで参加した夫婦が古代ローマ時代の「勝利の女神」のレリーフを見つけた。

イギリス・ノーサンバーランド州のヴィンドランダ遺跡で、ボランティアで発掘調査に参加していた夫婦が、およそ1800年前の女神が彫られたレリーフを発見した。
ヴィンドランダ遺跡はスコットランドとイングランドとの境にあり、1世紀末から2世紀前半にかけてローマ帝国が北の境界線を守るために築いたハドリアヌスの長城の一部にある。同遺跡にはローマ軍部隊の駐屯地の遺構が残されており、1987年に同遺跡を含むイングランドとスコットランドの国境近くに築かれたハドリアヌスの長城が単独で世界遺産に登録された。
ガーディアン紙によると、レリーフを見つけたのはリバプール市内で医療関係の仕事をするディリス・クインラン(69歳)と、その夫で、リバプール市議会でエンジニアをしているジム(68歳)。2人は長期休暇のたびにヴィンドランダ遺跡の調査に加わっており、今年で21年目になる。今回、歩兵兵舎跡の上に重なった瓦礫を片づけていた中でこのレリーフを見つけた。

発見されたレリーフは高さ47センチで、女性の姿が浮き彫りにされていた。ニューカッスル大学の考古学教授であるロブ・コリンズはレリーフを調査し、この人物を勝利の女神と特定した。古代ローマでは、戦争が起こると宗教と神話の中でしばしば勝利が擬人化されてきた。
レリーフが見つかった兵舎は、213年頃に建設されたことが分かっている。この時代はセウェルス戦争後で3人の提督が王位を巡って争っており、ローマ人にとっては政治的に激動の時期でもあった。レリーフは戦争の終結を記念して兵舎に掲げられていたと考えられているが、専門家たちは、もともとは巨大なアーチがあり、その一部だったと推測している。ヴィンドランダの発掘責任者であるアンドリュー・バーリーは、「美しく彫られたこの像は、ローマの要塞が単なる実用的な建造物ではなかったことを鮮やかに思い起こさせます。要塞には威厳があり、その象徴性は、2000年近く前のこの地の兵士たちにとって、文化の重要な一部であったことは間違いありません」と話す。
今回の発見について、夫妻はガーディアン紙に次のように語った。
「私たちは長年、休暇の大半をヴィンドランダで過ごしてきました。 ベテランの発掘スタッフとして、私たちがこれまで見つけてきた中で最も素晴らしいことですが、重要なのは、夫婦で行ったということです。(発掘調査は)私たちが知る限り、最高のリラクゼーションです。 よく食べ、よく眠り、いい仲間に恵まれ、常に学ぶことがある。 これ以上何を求めるのでしょうか?」
アンドリュー・バーリーは、同紙で夫婦の発見を称えてこう続けた。
「発掘調査は、手に汗握る興奮があります。 そこで得られるのは、歴史との直接的な繋がりです。 まるで過去に触れているようで、長い年月が溶けていくような感覚になるのです。 考古学者として、多くの時間を捧げるボランティアとして、私たちはこの瞬間のためにやっているのです」
同遺跡を管理するヴィンドランダ・チャリタブル・トラストは、1970年の設立以来、発掘調査の一環としてボランティアを受け入れてきた。だが常に大変な人気で、毎年定員が500人のところ5000人もの応募が来るという。
勝利の女神のレリーフは、2026年初めに、地元のヴィンドランダ博物館で最新調査の成果を紹介する展覧会の一環として一般公開される予定だ。(翻訳:編集部)
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