深刻な財政難にあえぐArtnetに英投資家が買収提案。AIを活用した「共生エコシステム」構築を計画

美術販売プラットフォーム兼アートメディアの先駆者と言われてきたArtnetを運営するArtnet AGに対し、英投資家が株式公開買い付けの案を提示した。同社は収入の核であったメディア事業などの業績不振により、資金難に陥っていた。

買収提案を発表したBeowolff Capital Managementはアート事業に対して意欲的な姿勢を見せている。Photo: Getty Images
買収提案を発表したBeowolff Capital Managementはアート事業に対して意欲的な姿勢を見せている。Photo: Getty Images

イギリスの投資家、アンドリュー・エヴァン・ウルフが経営するBeowolff Capital Managementは、ベルリンに拠点を置く美術販売プラットフォームおよびアートメディアのArtnetを運営するArtnet AGに対し、任意の株式公開買い付けと、上場廃止提案を開始することを発表した。

現時点で同社は、株主に対して、3月3日の通常の株価よりも97%高い1株あたり11.25ユーロ(約1800円)の現金による買収を提案しており、Artnet AGの株主の65%がこの提案を支持。中でも、大株主の一社でドイツを代表するアートディーラーの一つに数えられるWeng Fine Art AGは5月27日、自社ウェブサイトで、保有するArtnet AGの全株式にあたる約29.99%をBeowolff Capital Managementに売却したと発表した(契約の完了は5月30日)。この買収提案は、Beowolff Capital Managementが運用する投資会社、SCUR-Alpha 1849 GmbH(将来的にLeonardo Art Holdings GmbHに社名変更予定)を通じて行われた。

Artnetの経営陣と監査役会も、5月27日に発表された声明で買収提案の支持を表明している。また、「より安定した非公開環境」と、株式市場の監視から解放される長期的な株主構造から恩恵を受けるだろうと述べた。この買収提案は、外部融資には依存していない。

Beowolff Capital Managementのこの動きからは、アート・テック分野への高い関心がうかがえる。同社は今年初めに美術販売プラットフォームのArtsyの支配株式を取得している。「デジタル・アート市場には加速的なイノベーションが求められる」と語るウルフは、人工知能(AI)を活用し、データに基づいた「共生エコシステム」の構築を計画しているという。

ドイツの経済紙、ハンデルスブラット紙によれば、Artnet AGは深刻な財政難に直面していた。ベルリンに拠点を置くは、2023年に190万ユーロ(現在の為替で約3億1000万円)の損失を計上し、赤字幅が前年と比べて拡大したという。売上高は2340万ユーロ(同約38億2200万円)まで落ち込み、同期間における手元資金はほぼ半減、50万ユーロ(同約8160万円)をわずかに上回るまで減少している。

また、アート市場の動きをまとめているニュースレター、Wall Powerによれば、2024年上半期のArtnetの売上高は7%減少したほか、かつてめざましい成長を遂げていた定期購読事業を含む、すべての主要事業で落ち込みを記録した。特に同社のメディア部門は、諸経費差引前利益がわずか16万2000ドル(現在の為替で約2340万円)と、最も業績の悪い部門となっており、今年だけで約100万ユーロ(約1億6300万円)の追加融資を受けている。

このような財政的困窮の背景には、構造的な経営課題がある。年間6700万人のユーザー数を抱え、高いブランド認知度を誇るにもかかわらず、Artnetは業界の先駆者として確立した優位性を収益に結びつけられずにいた。さらに投資家らは、創業者であるノイエンドルフ家と大株主のWeng Fine Art AGとの対立をはじめとする内部対立により、長年にわたって事業が停滞している状況を目の当たりにしてきた。

とはいえ、Beowolff Capital ManagementはArtnetの「強固な事業基盤」を称賛し、同社への信頼を表明している。

買収提案の受け入れ期間が終了した後に実施される上場廃止により、Artnetは上場企業として負っていた報告義務から解放されることだろう。これにより、デジタル・アート・プラットフォーム業界全体の再編の起点となる可能性がある。(翻訳:編集部)

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