ナスカの地上絵にダメージの危機!? 背景に金価格高騰と鉱山資源の争奪戦
ペルーの文化省がナスカの地上絵を囲む保護区の約半分を削減することを発表し、考古学研究者らから世界遺産が鉱業政策の犠牲になりかねないとの憂慮の声が上がっている。近年ナスカでは、山形大学による新たな地上絵の発見が加速。研究成果が上がっている中での決定だ。

5月30日、ペルーの文化省がナスカの地上絵周辺の保護区を約5600平方キロメートルから約3200平方キロメートルに縮小することを決定した。これに対し、考古学研究者や環境保護活動家、さらにはペルー文化省の元職員らは、世界遺産が鉱物資源をめぐる争いの犠牲になる恐れがあると警告を発している。
約2000年前にさかのぼるナスカの地上絵は、ペルー中南部の砂漠地帯、広さ約400平方キロのナスカ台地に広がる。そこに描かれているのは動植物や人物を思わせるものから幾何学的なものまで幅広く、これまでの調査でハチドリやシャチ、サル、そして最近ではネコ科の動物の絵などが確認されている。
非営利団体、アマゾン・コンサベーションでテクノロジーディレクターを務めるシドニー・ノボアによると、環境保護の対象から除外された地域は、鉱業合法化登録の手続き中とされる非公式鉱山の労働者らが所有する約300もの鉱区と重なっているという。その背景となっているのが、世界的な貴金属価格の上昇だ。特に高騰が著しい金の埋蔵量が豊富なペルーでは、合法鉱山や非合法採掘業者、マフィアが入り乱れ、激しい土地の争奪戦が起きている。
今回の縮小決定によって、「(保護区は)非常に深刻なリスクと累積的なダメージにさらされる」とする元環境相のマリアーノ・カストロは、英ガーディアン紙の取材にこう答えている。
「ペルー文化省は、採掘が数百地点にまで拡大していることが、環境の影響を受けやすい考古学遺産であるナスカ地域にダメージを蓄積させることを考慮していません」
一方、5月31日にファブリシオ・バレンシア文化相が国営ラジオ局の番組に出演。今回の保護区縮小について、「地上絵と当該地域の物理的特徴との関係をより正確に反映し、地上絵の保護や保存を確実にする必要性に応えるもの」だと説明している。
1994年にユネスコは、「文化、呪術的・宗教的伝統や信仰を示すもの」として、「ナスカとパルパの地上絵」を世界遺産に指定。この遺跡はペルーの重要な観光資源であり、特に近年はAIやドローン、航空レーザー測量といった技術の進歩で、新たな地上絵の発見が相次いでいる。
その中心となっているのが日本の山形大学だ。2019年に同大学の研究チームは、ナスカ台地とその周辺部で143点の新たな地上絵を発見したと発表。また、2022年にはラクダ科やネコ科の動物、鳥、シャチ、ヘビなど168の地上絵が、2024年にはAIを活用した調査で新たに303点が見つかっている。(翻訳:石井佳子)
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