デヴィッド・リンチの人柄を物語る愛用品441点がオークションへ。ディレクターズチェアは現在400万円
今年1月に78歳で逝去した映画監督デイヴィッド・リンチの所有品441点のオークションが開催中だ。日頃から使っていたポラロイドカメラから、幻の未完成作品までが並ぶ本オークションは6月18日まで。

今年1月に78歳で逝去した映画監督、デヴィッド・リンチの所有品が、エンターテインメント関連専門のオークションハウス、ジュリアンズに出品されている。入札はすでにジュリアンズのウェブサイト上で始まっており、リンチが愛用したエスプレッソマシンやポラロイドカメラから、彼が手がけた作品に関連するポスターや機材、貴重な愛用ギターまで、なんと441点もの品々が出品されている。オークションは6月18日に終了する予定。
映画『マルホランド・ドライブ』やドラマ「ツイン・ピークス」で知られるリンチは、長年の喫煙が原因で、2024年に肺気腫を発症していたことを公表した。映画やドラマのみならず、ペインティングも数多く手がけ、世界各地の美術館で展示されてきた多才なアーティストだった。リンチが画家として活動するきっかけとなった友人の父親、ブッシュネル・キーラーの作品も本オークションには出品されており、現時点で1万ドル(約145万円)の入札価格が付いている。
今回のオークションでは、リンチの創造性を物語る貴重な品々が出品されており、本稿執筆時点で最高入札額を記録しているのは、彼の名が背もたれに縫い付けられたディレクターズチェアの3万ドル(約430万円)だ。
もちろん、リンチ作品のメモラビリアも多く出品されており、「ツイン・ピークス」に登場した、象徴的な赤いカーテンとジグザグ模様の床のセットは1万7500ドル(約250万円)、続編「ツイン・ピークス・リターン」に登場した核爆発の写真は1万2500ドル(約180万円)の入札価格が付いている。
また、監督デビュー作である映画『イレイザーヘッド』の35mmフィルム(2万7500ドル[約394万円])や『ロスト・ハイウェイ』で使われたものと類似したブーメラン型のソファ(4500ドル[約64万円])も目玉の品として挙げられる。これ以外にもリンチのコレクションには、マン・レイのサインが入った手の写真プリントも含まれ、入札価格は今のところ7000ドル(約100万円)に達している。
リンチが自宅スタジオで使用していた楽器類も数多く並ぶ。中でも注目は、ダニー・フェリントンがリンチのデザインに基づいて製作したカスタムメイドの5ネックギターだ。ローランドのシンセサイザーも出品されており、現時点でそれぞれ7000ドル(約100万円)と1500ドル(約21万円)の入札価格が付いている。
リンチの作品を学術的に分析する研究者にとって貴重なのは、リンチの未完成プロジェクト『ロニー・ロケット』と『牛の夢』の脚本と制作資料だろう。前者は『イレイザーヘッド』の続編として1970年代後期に企画されたシュールな探偵物語、後者は1990年代中期にハリー・ディーン・スタントンとマーロン・ブランドの出演を想定して書かれた「元牛だった3人の男」の物語だった。『ウシの夢』の出演オファーをブランドに持ちかけた際に「気取ったたわ言」と酷評されたと、リンチは自伝で振り返っている。
家具デザイナーとして活動していたリンチの所有品には、ディスクサンダーやドリルプレス、テーブルソーといった電動工具も出品されている。また、イームズ夫妻やハンス・ノルといった著名デザイナーによる家具コレクションに加えて、リンチ自身が制作した家具も含まれている。
1970年代初頭から実践していた超越瞑想の影響も見て取れる。1974年に自作した香炉や金色の仏像も出品アイテムに名を連ねるほか、皮肉なことに、肺気腫の原因となった灰皿やライターのコレクションも含まれていた。
ちなみにARTnews JAPAN編集部では今はなきフェルナンデス製の8弦ベースギター(3500ドル[約50万円])と「ツイン・ピークス」のボビー・ブリッグス(演:ダナ・アシュブルック)が作中で着用していたとされる靴下(1000ドル[約14万円])、そして「For David Lynch (Gift from Marg '46)(デヴィッド・リンチへ[マージより 46年])」と書かれたブタの貯金箱(1750ドル[約25万円])が入札候補として上がっていた。
ターナー・クラシック・ムービーズとの共同企画として実施された今回のオークション。映画・テレビ業界の重要人物を記念するシリーズの一環として行われているこの企画では、リンチの所有品以外にも、マリリン・モンローが着用したチョーカーや、ブルース・リーが使用していたヌンチャクなどが出品されている。