ウフィツィ美術館で観客が18世紀の絵画を破壊。館長は「アンチセルフィー策」を検討
6月21日、イタリア・フィレンツェのウフィツィ美術館を訪れた男性が絵画を背景に写真を撮ろうとしたところ躓き、キャンバスを破る事故が発生。これを受けて同館の館長は、美術品を守るための新規則を設けると発言した。

イタリア・フィレンツェのウフィツィ美術館で6月21日、絵画が破られる事故が発生した。防犯カメラの映像によると破損させたのは若い男性で、アントン・ドメニコ・ガッビアーニが1712年に制作したトスカーナ大公フェルディナンド・デ・メディチの肖像画の前で同伴の女性に写真を撮ってもらおうとしていた。
男性が肖像画のポーズを真似ながら作品に近づいたところ、作品の前にあった高さ約30センチの柵に躓き、身体を支えようと手を伸ばした際に、大公の右足の靴付近のキャンバスを破いてしまった。男性はその場にいたスタッフに身柄を確保され、警察に引き渡された。イタリア国籍というこの男性は今後刑事告発され、絵画の修復費用を負担する可能性がある。
この事故について、ウフィツィ美術館のシモーネ・ヴェルデ館長はテレグラフ紙の取材に、「ミームを作ったり、SNS用のセルフィーを撮ったりするために美術館を訪れる観客による問題は、今や蔓延しています。我々の文化遺産への敬意と相容れない行動を阻止するため、『アンチセルフィー策』として非常に明確な規則を設けているところです」と答えた。
破壊された絵画の人物、フェルディナンド・デ・メディチは、ルネサンス期にフィレンツェで権力を握ったメディチ家の一員で、かつて北イタリアに存在したトスカーナ大公国を1670年から1713年に渡って統治した。特に音楽を庇護し、楽器製作者バルトロメオ・クリストフォリのパトロンとなり、現在のピアノの発明に貢献した人物として知られている。フェルディナンドの治世下で、フィレンツェは音楽の都となった。
アートニュースペーパーによると、専門家がフェルディナンド・デ・メディチの肖像画を調べたところ、損傷は比較的軽いという。同作は5月28日に開幕した企画展「フィレンツェとヨーロッパ:ウフィツィ美術館の18世紀芸術」の一部として展示されており、この事故を受けて展覧会は7月2日まで中止している。再開以降は予定通り11月28日まで開催されるという。
このところ、美術館で観客が作品を破壊する事故が相次いでいる。先週はイタリア・ヴェローナのパラッツォ・マッフェイ美術館で、ニコラ・ボッラが制作した、ゴッホが描いた椅子にクリスタルを敷き詰めた立体作品《ファン・ゴッホの椅子》(2006–07)に観客の男性が誤って座って破損させた。(翻訳:編集部)
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