テートが長期的な運営資金確保のために新基金設立へ。2030年までに約300億円規模を目指す
イギリス国内の文化施設を複数運営するテートが長期運営資金確保のため「Tate Future Fund」を設立した。最終的に1億5000万ポンド(約297億円)規模を目指すこの基金は、政府助成金や事業収入に続く第4の資金源として位置づけられるが、民間資金への依存を高める動きに対し、美術関係者の間では賛否が分かれている。

イギリス国内に複数の文化施設を展開するテートは、長期的な運営資金を確保するため、「Tate Future Fund」と呼ばれる基金を立ち上げた。現在は4300万ポンド(約85億円)以上の資金が集まっているが、最終的には1億5000万ポンド(約297億円)まで規模を拡大することを目指すという。テートのディレクターを務めるマリア・バルショーは6月25日に開催された資金調達ガラで、このプロジェクトは3年がかりで実現したと明かした。
テートの主な資金源は、イギリス政府から受けている助成金、チケットやミュージアムショップによる事業収入、そして慈善事業からの寄付をはじめとするその他の収入だ。テートの年次報告書によれば、2023〜2024年度は5080万ポンド(現在の為替で約101億円)の助成を受けたほか、売上と入場料、そして資金調達による収入は1億1920万ポンド(同約236億円)に達したという。「Tate Future Fund」はこれらに続く4つめの資金源として位置づけられており、芸術的創造性と公共の利益に充てられるとバルショーは述べた。彼女はまた、学術的研究を継続的に行うために同基金の必要性を強調し、こう語った。
「本基金には、約50年にわたってテートを支援してくださったマウンテン財団からも寄付いただいていおり、イギリス美術のキュレーター職を恒久的に支えられるようになります。こうした取り組みを持続的に行えるような基盤を構築するために、Tate Future Fundが立ち上げられたのです」
コロナ禍から続いていた赤字を解消するために、従業員7%のレイオフを行うなど、テートは厳しい財政状況にあった。これを乗り切る手段として「Tate Future Fund」が立ち上げられたのかとガラの会見で問われると、バルショーは、継続的な運営を行うための赤字対策ではないと主張し、こう続けた。
「赤字運営の解消は克服できています。また、この基金は、テートが運営する文化機関の長期運営に充てられるものであって、現在直面している課題を克服するために用いられるわけではありません。テート財団によって独立して管理されるこの基金には原則、まとまった元本を確保してそれを保護し、毎年生み出される利息のみを活用する決まりがあります。基金が生み出す額よりも少ない額を引き出し、基金自体が成長できるような運営を理想としています」
こうした基金の運営方法はアメリカの美術機関で多く見られ、メトロポリタン美術館やニューヨーク近代美術館(MoMA)といった主要文化機関が採用している。アメリカの基金と同様に寄付金の多くは理事会が拠出し、寄付者には理事長のローランド・ラッドや投資運営会社CVCキャピタル・パートナーズのニック・クラリー、テートの元理事メンバーでヘッジファンド運営者のマラ・ガオンカーといった人物らが名を連ねる。これ以外にも、ブルームバーグ・フィランソロピーズやマイアミ拠点のコレクター、ペレス夫妻も基金に寄付している。
イギリスの美術館は現在、公的資金と民間資金の双方に頼っており、近年では特に財政を支えるために企業スポンサーシップや慈善寄付も取り込もうとしている。だが、民間資金への依存度を高めるこうした動きに対する美術関係者の賛否は分かれているようだ。
ロンドン・ナショナル・ギャラリーの元館長であるチャールズ・サウマレス・スミスは、民間資金の導入に理解を示しており、「政府の資金提供が縮小し、民間資金で補う必要があることは明らかだった」とアート・ニュースペーパーに語っている。一方で、匿名の資金調達コンサルタントは、「Tate Future Fund」の倫理的側面について懸念を示しており、寄付者のバックグラウンドチェックを行うと同時に、この基金の活用用途を明示する必要があると指摘。こうした賛否両論があるなかで、バルショーはガラでこう語った。
「この国のすべての芸術団体や美術館と同様に、我々の倫理委員会は慈善委員会が定める原則に従っています。そのため、公共の利益になるのであれば寄付を受けるべきだという前提で、すべての寄付を検討する義務が私たちにはあるのです」