「色」と「支配」の関係を通じてクンバ・サンバが問う、グローバル化の欺瞞 【New Talent 2025】

US版ARTnewsの姉妹メディア、Art in America誌の「New Talent(新しい才能)」は、アメリカの新進作家を紹介する人気企画。2025年版で選ばれた20人のアーティストから、色に意味を持たせた抽象絵画やファウンド・オブジェを用いた作品を生み出すクンバ・サンバを紹介する。

国連総会で通常交わされるのは国際法とその世界的な影響についての議論であり、議事録に関心を持つのは主として、外交官や記者たちだ。しかし最近、国連総会をフォローしている意外な人物がいる。それは、世界各国の代表者が一室に集まることの可能性に魅了されたアーティスト、クンバ・サンバだ。ニューヨークの国連本部から徒歩で20分ほどのオフィスビルにある小さなギャラリー、エンパイアで開かれたサンバの展覧会では、2024年の総会の様子をライブ配信する映像そのものが1つの作品として展示されていた。

各国の代表者たちの言葉は、国連の会議場では世界中に影響を与える可能性を秘めた重みを持つ。しかし、エンパイアではそれが展覧会の背景音として流れていた。「Dress Code(ドレスコード)」と題されたこの展覧会は、数本のポールと緑のカーペット、国連本部で進行中の会議のライブ映像を流すスマホとスピーカーが置かれているだけというシンプルな構成だった。

建設会社から調達してきたポールは、国旗を連想させる色で不規則な幅の帯状に彩色されている。サンバの説明によると、赤、白、青に塗られたポールは、植民地の宗主国を表しているという。多くの旧宗主国がこの3色を国旗に使っているからだ。ニューヨークで会ったとき、「私が関心を持っているのは色と権力です」と彼女は言っていた。

ニューヨークのギャラリー、エンパイアで開催されたクンバ・サンバの展覧会「Dress Code」(2024)。Photo: Courtesy Empire, New York
ニューヨークのギャラリー、エンパイアで開催されたクンバ・サンバの展覧会「Dress Code」(2024)。Photo: Courtesy Empire, New York

これまでサンバは、絵画のほかに、木製のパレットや廃品の暖房用ラジエーターなどのファウンド・オブジェに色を塗った立体作品を発表してきた。彼女が作品の中で使っている色は、それぞれが特定の物事へのオマージュとなっているが、多くの場合、その対象が何なのか他人には分かりづらい。

たとえば《Stripe Blinds(縞模様のブラインド)》(2023)は、壊れたベネチアンブラインドを塗装した作品で、そこに塗られたライムグリーン、マスタードイエロー、グレーは、サンバの姉がモデルをしていた頃に着た服に使われていた色だ。だが、彼女の思い出との関係を知らない人にとって、この作品は冷たく人間味のないものに感じられる。一般には普遍的な言語と考えられている抽象表現に変換される過程で、こうした物語から感情的なニュアンスは全て失われてしまう。

実は、それは意図されたものだ。サンバが「翻訳で失われるもの」に興味を持つ背景には、これまでの人生の中でさまざまな国を行き来してきた経験がある。ハーレムに生まれ、幼少期の5年間をセネガルで過ごした後に家族とニューヨークに戻った彼女は、現在ニューヨークとヨーロッパの複数の都市の間を飛び回っている。今年の9月には、彼女の拠点の1つであるバーゼル美術館で新作が発表される予定だ。

ちなみに、大西洋の両側にある国々を往復する生活の中で、彼女はゴミがあることを引き起こしているのに気づいたという。ヨーロッパ諸国のゴミがセネガルを含むアフリカ諸国の海岸に流れ着くこの現象を、彼女は「因果関係現象」と呼んでいる。

2024年にロンドンのアルケイディア・ミッサで開かれた個展「Red Gas(赤いガソリン)」で、サンバは赤、青、ベージュなど、それぞれ単色で彩色した壁掛け型の暖房用ラジエーターを展示した。四角や長方形のラジエーターは、ロシアのシュプレマティスム(1910年代にカジミール・マレーヴィチが主導した抽象表現)を連想させるが、ここでも意図的に仄めかされていることがある。それは現在のロシアとの関係だ。

個展に合わせて作られた小冊子のエッセイで、アートディーラーのミシャ・ルスティンは「赤いガソリン」、すなわち世界中の家庭を暖めるためにロシアから輸出される石油について論じている。それは、ロシアのウクライナ侵攻後に取られたロシア産原油への禁輸措置で、欧州がエネルギー危機に陥ったことを改めて思い起こさせるものだった。

単色で彩色されたラジエーターについてサンバは、「完全な抽象は意図していない」と述べている。むしろそれらは、物質的かつ思想的なグローバルサプライチェーンを映し出しているのだ。(翻訳:野澤朋代)

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