全長70メートル《バイユーのタペストリー》が900年ぶりにイギリス帰還。良好な英仏関係を強調か

1066年のノルマン・コンクエストを描いた《バイユーのタペストリー》が、英仏首脳の合意により2026年夏から大英博物館で展示されることが決定した。全長およそ70メートルに及ぶ大作がイギリスに帰還するのは、完成以来900年ぶりのことだという。

《バイユーのタペストリー》 ©Bayeux Museum
《バイユーのタペストリー》 ©Bayeux Museum

1066年のノルマンディー公ギヨーム2世によるイングランド征服の物語を描いた《バイユーのタペストリー》が、2026年に大英博物館に貸し出されることが発表された。イングランドで制作されたとされるこのタペストリーがイギリスに戻るのは、完成以来およそ900年ぶりとなる。

《バイユーのタペストリー》の展示は、イギリスのキア・スターマー首相とフランスのエマニュエル・マクロン大統領との合意によって実現したもので、大英博物館での展示は2026年8月からスタートする予定だ。交換条件として、大英博物館は7世紀アングロサクソン時代の船葬墓、サットン・フーからの出土品と、12世紀にルイス島で作られたチェスの駒をノルマンディー地方の文化機関に貸し出すという。

全長およそ70メートルに及ぶ《バイユーのタペストリー》のような大作は、世界にほとんど存在しない。大英博物館によれば、本作には626人の人物と202頭の馬が58の場面にわたって描写されており、これらが一体となってノルマンディー公ギヨーム2世とヘイスティングズの戦いを物語っている。

本作はロマネスク様式の傑作の一つとして珍重されており、小さな図像が組み合わさって壮大な物語を紡いでいる。タペストリーに描かれたこの歴史的な戦いは、その後数世紀にわたって制作された数多くの歴史画をはじめとする芸術作品の先駆けとなった。また現代のアーティストたちにも影響を与えており、その一例がブリッタ・マラカット=ラッバだ。彼女は2003〜2007年にかけて制作したタペストリー作品《Historjá》で同様の形式を用いて、スカンジナビア半島北部とロシアのコラ半島に住む先住民族、サーミ人の歴史や世界観、そして抵抗の物語を描いている。

タペストリーの展示実現に向け、関係者は10年近くもの歳月を費やしてきた。その経緯もあり、ロンドンでの展覧会は2026年に最も注目される展示のひとつとなりそうだ。

マクロン大統領は2018年に、ブレグジット後も英仏間の国交が続いていることを象徴する意図も込めてタペストリーの貸与計画を発表。当初は2022年に貸し出される予定だった。

しかし、タペストリーが移送に耐えられないほど傷んでいるとの報告が出され、貸与計画は2021年に頓挫した。その後、ヴィクトリア&アルバート博物館が実施した調査により、2022年に同館で展示できる可能性が浮上したものの、その調査結果がタイムズ紙で報じられて以来、続報は途絶えた。

こうした紆余曲折を経て今回貸与が決定した背景には、英仏関係が良好であることを強調したい両国の意思がうかがえる。貸与の発表後、マクロン大統領は、作品に触れることはなかったもののイギリスとの関係維持の重要性をXに投稿している

「イギリスは我が国の戦略的パートナーであり、同盟国であると同時に友でもある。私たちの絆は歴史によって築かれ、長きにわたる信頼によって強化されてきた」

また、大英博物館館長のニコラス・カリナンは次のような声明を発表している。

「タペストリーの展示は、私たちが積極的に取り組みたいと考えている国際的パートナーシップの典型例です。私たちが所有する最高の作品を可能な限り共有することで、これまでロンドンで鑑賞することのできなかった世界の至宝を大英博物館を訪れる人々に披露できるのです」

この発表は、《バイユーのタペストリー》を肉眼で観たい人にとってもいい知らせと言えるだろう。今年の初めには、ドイツの考古学者の遺産から本作の断片が発見されており、フランスに移送される予定だという。(翻訳:編集部)

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