ポンピドゥー・メスで予定されていた企画展が中止に。カリブ系キュレーターへの差別と美術界が非難

2026年後半にポンピドゥー・センター・メスで開催予定だった、カリブ海とフランス領ギアナの芸術を紹介する展覧会「Van Lévé」の中止が発表された。企画を担ったカリブ系キュレーターの出自が中止の判断に影響したのではないかとして、美術関係者からは「差別的な決定だ」と非難の声が上がっている。

ポンピドゥー・センター・メスの外観。Photo: Becker & Bredel/ullstein bild via Getty Images
ポンピドゥー・センター・メスの外観。Photo: Becker & Bredel/ullstein bild via Getty Images

ポンピドゥー・センター・メスで2026年10月に開催が予定されていた、カリブ海とフランス領ギアナの芸術に焦点を当てる展示が中止されることが、6月に発表された。これを受け、多くのアーティストが抗議声明を発表している。

この展覧会は、シャルジャ・ビエンナーレやプロスペクト・ニューオーリンズを手がけたグアドループ出身のキュレーター、クレール・タンコンスによって準備が進められていた。

「Van Lévé」と題されたこの展覧会のタイトルは、「風が立つ」を意味するフランス語、「le vent se lève」のクレオール語訳に由来する。参加作家には、昨年のマルセル・デュシャン賞を受賞したガエル・ショワーヌや、ベルリンのシンケル・パヴィリオンで個展が開催中のポル・タブレといった、著名アーティストが名を連ねていた。

ル・モンド紙によれば、タンコンスとポンピドゥー・センター・メスの館長、キアラ・パリージの間では緊迫したメールのやりとりが続き、6月に中止が決定されたという。そのなかでパリージは、次のように述べている。

「私たちは当初予定していた展覧会やイベントを抜本的に再編成せざるを得ない状況にあり、この展覧会の中止も、特に厳しい予算状況のなかで決定されたことでした」

展覧会にはフォード財団から提供された50万ドル(約7364万円)を含め、複数の組織から資金提供を受けていたため、予算上の制約による中止は「ありえない」と、同紙の取材に対してタンコンスは述べた。

展覧会の中止はフランス国内で疑問を呼び、一部のアーティストやキュレーターが美術館の判断に差別的思想が影響したのではないかと問題視している。ル・モンド紙は、美術関係者から寄せられた批判を公開しており、そこにはこう記されていた。

「タンコンスは国際的な評価が確立されており、自身が企画した予算の半分近くを支援者から調達したとしても、彼女の展覧会は野心的だと見なされてしまう。私たちも彼女の野心に連帯を示し、揺るぎない支援を提供する」

声明への署名者には、2022年のヴェネチア・ビエンナーレでフランス館の代表作家を務めたジネブ・セディラや、「Van Lévé」への参加が予定されていた、タビタ・レゼールが名を連ねた。(翻訳:編集部)

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