『AND JUST LIKE THAT… / セックス・アンド・ザ・シティ新章』アート監修者が選定の舞台裏を語る

人気ドラマシリーズ『AND JUST LIKE THAT… / セックス・アンド・ザ・シティ新章』において実は見逃せないのが、登場人物の自宅に飾られているアート作品だ。とくにリサ・トッド・ウェクスリーの自宅には、多数のアフリカ系アメリカ人アーティストによる作品が登場する。選定を担当したラクウェル・シェヴルモンに、その舞台裏を聞いた。

テレビ番組『ライブ・ウィズ・アンディ・コーエン』にゲスト出演したラクウェル・シェヴルモン(2025年1月)Photo: Charles Sykes/Bravo via Getty Images
テレビ番組『ライブ・ウィズ・アンディ・コーエン』にゲスト出演したラクウェル・シェヴルモン(2025年1月)Photo: Charles Sykes/Bravo via Getty Images

2000年代初頭に放映されたドラマシリーズ『セックス・アンド・ザ・シティ』は、登場人物たちのスキャンダラスな性生活とハイブランドファッションで人気を博した。一方、2020年代に始まったリブート版の『AND JUST LIKE THAT… / セックス・アンド・ザ・シティ新章』は、新たな視点とリサ・トッド・ウェクスリーなど新キャラクターの登場で、中年期の登場人物たちをより多面的に描いている。ウェクスリーは優しい母で愛情深い妻、そして先鋭的なドキュメンタリー映画作家として活躍する、強い黒人女性という設定だ。

ウェクスリーの人物づくりのカギとなるアートコレクションの監修には、キュレーターでコレクターのラクウェル・シェヴルモンが起用された。ちなみにシェヴルモン自身も最近、リアリティ番組『リアル・ハウスワイフズ・オブ・ニューヨークシティ』のリブート版に出演している。

『AND JUST LIKE THAT…』でウェクスリーが夫ハーバートと暮らす自宅には、黒人アーティストの具象画を中心としたコレクションが飾られている。そこに並ぶのは、キャリー・メイ・ウィームスの「キッチンテーブル」シリーズ作品(1990)、デボラ・ロバーツの《Political Lamb in a Wolf’s World(オオカミの世界の政治的な子羊)》(2018)、バークリー・ヘンドリックスの《October’s Gone . . . Goodnight(10月は去った…おやすみ)》(1973)、ゴードン・パークスの《Department Store, Mobile, Alabama(アラバマ州モービルのデパート)》(1956)、ミカリーン・トーマスの《Portrait of Mnonja(ムノンジャの肖像)》(2010)と《Racquel avec Les Trois Femmes Noires(ラケルと3人の黒人女性)》(2011)、デリック・アダムスの《Family Portrait 9(家族の肖像9)》(2019)と《Style Variation 32(スタイルバリエーション32)》(2020)、アルマ・トーマスの《Snoopy — Early Sun Display on Earth(スヌーピー ― 地球の向こうから昇る太陽)》(1970)といった作品だ。

ドラマの中でブラックアートの素晴らしさを伝えるため、シェヴルモンは幅広い年代にわたるこれらの作品を1つ1つ丹念に選んでいった。安らぎと困難、両方の瞬間を映し出すこのコレクションは、ウェクスリーという登場人物の人となりを表している。つまり、自身もドキュメンタリー作家という表現者である彼女に刺激を与えるだけでなく、彼女という存在そのものの反映でもある。

US版ARTnewsはシェヴルモンにインタビューを行い、彼女がウェクスリーのコレクションをどのようにキュレーションしたのか、そして黒人の生き方を体現する作品を世界中の視聴者に見せることの意義などについて聞いた。

展覧会とは異なるドラマ向けキュレーション

──このドラマの登場人物、リサ・トッド・ウェクスリーのアートコレクションをキュレーションすることになった経緯を教えてください。

適任者として私の名前を挙げてくれた人たちがいたそうで、制作チームからこのプロジェクトへの参加を打診されました。ウェクスリー家の自宅とコレクションに焦点を当てたエピソードがあるのですが、それは家を訪ねてきた彼女の義母があれこれ難癖をつけるという話です。制作チームからは、リサや夫、子どもたちなど、登場人物の年齢や住んでいる場所などについて説明を受けました。

私はテレビ番組や映画の仕事をする際には、関連する登場人物がどんな人物なのか知るようにしています。コレクターに作品購入のアドバイスをするときと同じです。その情報をもとに、登場人物がコレクターとしてどんな段階にいて、どんな種類の作品に興味を持っているのかを判断することができます。今回も、まずはそこから始めました。

先ほど話したエピソードについて少し説明を受けた後、コレクションに入れるべきアーティストについていくつかのアイデアを提出しました。制作陣が気に入ってくれたので、それをもとに選考を進めていきました。(企画の初期段階でアーティストに参加の打診をする展覧会のキュレーションとは違い)テレビの仕事の場合、アーティストに連絡を取るのは制作陣の意向が固まった後になります。セットデザインは展覧会とは事情が異なるからです。たとえば、自宅の特定の場所に飾る目的で作品を選ぶコレクターもいますが、私がお手伝いをしているコレクターの場合、気に入った作品を購入してから置く場所を決めることがほとんどです。けれどもテレビや映画の場合、作品の設置場所を事前に把握しなければなりません。全てが決まった後、アーティストに連絡を取り、プロジェクトに興味があるかどうかを確認します。

──セットデザインが固まり、アーティストに連絡を取った後は、どのように進められるのでしょうか?

テレビ番組では、実際の作品を借りることはまずありません。特に高額作品の場合、保険の予算が足りないことが多いからです。代わりに、作品画像の使用許可を取り、セット制作の担当者に複製を作成してもらう場合がほとんどです。カンバスなど、作品ごとに適した支持体に画像を印刷して、必要に応じて加工します。『AND JUST LIKE THAT…』の美術チームは優秀で、通常よりはるかに丁寧な仕事をしてくれました。できる限り本物らしく見えるよう、印刷画像の上に絵の具を塗り重ねるために作品の色について尋ねられたりもしました。これはドラマの中でコレクションそのものに焦点が当たるからですが、とても稀なケースです。

たとえば、私が何年か前に仕事をした『Empire 成功の代償』(2015〜2020年のドラマシリーズ)では、作品は背景に映るだけだったので、カンバスに印刷した画像をそのまま壁に掛けていました。『AND JUST LIKE THAT…』の場合は、登場する家族について考えをめぐらし、彼らの人物像や物語の手がかりとなるようなもの、主に具象的な作品を選んでいます。

──セットに使われた全ての作品が複製なのですか?

幸運なことに、実物を使って撮影できた作品もありました。ゴードン・パークス(写真家、映画監督、小説家、ジャーナリスト)の作品がそうです。彼の作品は複製が禁止されているため、作品を管理している財団に連絡を取ったところ、実物を借りられることになったのです。作品の搬入と撮影は同行したセキュリティ担当者が見守る中で行われ、それが出てくるシーンの撮影が終わると、すぐに持ち帰られました。現場にあったのは、まさにそのワンシーンの撮影中だけです。ウェクスリーがドキュメンタリー映画作家なので、ゴードン・パークスの作品は不可欠でした。もう1つ、オリジナルを使って撮影したのは、キャリー・メイ・ウィームスの作品です。

作品選びにはドラマの設定や人物造形を考慮する

──リサ・トッド・ウェクスリーは強い女性で、黒人の映画監督としてマンハッタンで裕福かつ華やかな暮らしをしています。彼女にとって大きな意味を持つアート作品は、そうした点を反映させる必要があると思いますが、どのようなアプローチで彼女のコレクションを選んでいったのでしょうか?

著名アーティストの作品も入れつつ、あまり知られていないアーティストの作品も取り入れたいと考えました。彼女は単に有名作品ばかりを追い求めるタイプではなく、真のコレクターだと示したかったからです。また、この一家にふさわしいものを選ぶため、念頭に置いたことがあります。たとえば、リサと夫が子育て中だということを踏まえ、ヌード作品は避けるべきだと思いました。また、黒人としてのアイデンティティを大切にしている家庭であることを明確に打ち出したかったので、具象作品で構成されたコレクションにしようと考えたのです。

──使いたかったのに叶わなかったアーティストや作品はありますか?

作品の使用が実現しなかったアーティストが 2、3人います。その1人がエイミー・シェラルドです。彼女は映画やテレビ番組に自作が使われることを好まないので、残念ですが仕方ありません。そのほかにも、コレクションに抽象作品も取り入れることになった場合に、検討したいアーティストが何人かいました。

──撮影に使った作品の中で、強く印象に残った作品はありましたか?

故バークリー・ヘンドリックスの作品です。彼の妻と遺産管理者に連絡を取り、使用許可が下りたときは飛び上がるほど嬉しく思いました。以前ほかの仕事で彼の作品を使おうとして叶わず、今回やっと実現したのです。本当に素晴らしい作品なんです! また、一般にはあまり知られていないものの、私が個人的にコレクションしているデボラ・ロバーツにも参加してもらいました。これまで何度も一緒に仕事をしてきましたが、彼女はいつも積極的に協力してくれます。

──彼女の作品は特に遊び心がありますね。黒人のアートの素晴らしさを広く知ってもらうためには、苦しい状況を描いた作品だけでなく、穏やかな場面や喜びを表現した作品を見せることが重要だと思います。

その通りです。それで言うと、アーティスト名を脚本に入れ、登場人物たちが彼らについて話す場面を設けることも重要でした。そうすれば、視聴者がこれらのアーティストについて調べ、彼らの活動についてより詳しく知ることができます。コレクションは、リサの人物造形の重要な一部となり、見た人にも共感してもらえたと思います。

テレビはより多くの人にアート作品を見てもらうチャンス

──多数の視聴者がいるメジャーな番組で、作品やアーティストを紹介することをどう考えていますか?

大きな意味があることだと思います。私がテレビの仕事を始めた当初は、それに関わることに不安を抱くアーティストが少なくありませんでした。けれども私は常に、アートを多くの人に見てもらうチャンスとして捉えています。アートは、誰もが簡単にアクセスできるものではありません。でもテレビ画面を通してなら、地方の美術館ギャラリーに展示されていない作品を見てもらえるし、美術館は敷居が高いと感じている人々にも作品を見てもらえます。大都市に住んでいない限り、一般の人がアート作品を見る機会は限られていますから。

でも、ドラマを通じてならアートがある生活とはどんなものなのか、具体的に見せることができます。これが重要なのです。それに、テレビや映画を通じてなら、ほかの方法ではありえないほど多くの人々に伝えることができると思います。アートは人の視点を変え、人生を変えます。私たちの生活にはアートが足りていません。そしてアート関連の予算は至るところで削られています。影響力のあるプラットフォームを通じてアートを民主化し、より身近なものになるよう、できる限りのことをしていきたいですね。

──大都市に住んでいても、多くの美術館の入場料は30ドル(約4500円)以上もします。普通の人にとって手頃とは言えない価格です。

かなり高額ですし、先ほどから名前が挙がっているアーティストたちが自作を見てほしいと願っている観客にとっては、なおさらそうです。テレビは、そうした観客に見てもらえる手段として有効です。結果として、美術館の展覧会よりも多くの人々に届けることができますし、それで誰かの人生が変わるかもしれません。

私がかつて携わった中でも、強い思い入れがあるプロジェクトが2023年の『終わらない週末』(原題:Leave the World Behind)という映画です。今回のドラマとはまったく違う雰囲気のもので、ジュリア・ロバーツとイーサン・ホークの演じる夫婦が週末を過ごすためにロングアイランドの海沿いの別荘を借り、そこで世界の崩壊に直面するという設定です。

彼らが滞在中、真夜中に別荘のオーナーであるマハーシャラ・アリが現れるのですが、借りたほうはオーナーがアフリカ系だと知らないため、緊張感が走ります。この映画に登場するアート作品もすべてアフリカ系アメリカ人作家によるものですが、どれも抽象作品です。この家が有色人種の所有である可能性を仄めかしながらも、『AND JUST LIKE THAT…』でのウェクスリー家のように、一目でそれと分かるようにはしたくなかったからです。

ところどころ、アダム・ペンドルトンゲイリー・シモンズジュリー・メレツの作品が映し出される場面があるので、気づく人もいるでしょう。また、ストーリーが進む中で徐々に変化していくグレン・ライゴンの作品もあります。ライゴンの許可を得て、彼の絵を使って3つの異なるイメージを作りました。映画の中の世界が混沌としていくにつれ、この絵もより混沌としたものに変化していきます。

これは私にとって、映画の物語を展開させるのにアートを使うことができた初めての機会でした。アートを通してウェクスリー家の人々を描いたのと同様に、あの映画でも登場人物たちの物語を伝えることができました。テレビ番組でアートを使うことに反対する人もいますが、私は完全に賛成派です。

──あなた自身のコレクションについてお伺いします。どのような方針で作品を集めていますか?

2000年にコレクションを始めたのですが、方向性が定まるまでには時間がかかりました。最近また少し方針が変わってきて、近頃はラテン系アーティストの作品を買うことが増えています。私自身プエルトリコ系ですが、ラテン系の作家たちは十分な支援を受けていないと感じています。コレクションの中心は、女性やクィア、有色人種のアーティストの作品で、時には一目惚れしてどうしても手に入れたいと思い、購入することもあります。(翻訳:野澤朋代)

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