「9億円バナナ」の次はトランプのミームコインに150億円。中国の暗号通貨王が大勝負

中国の暗号通貨起業家で美術品コレクターとしても知られるジャスティン・サンが、ドナルド・トランプ大統領が発表したミームコイン「$TRUMP」を1億ドル分購入すると発表した。暗号通貨と政治が密接に結びつくなか、倫理的懸念の声も上がっており、$TRUMPをめぐる金と権力の関係が問われている。

マウリツィオ・カテランの《Comedian》を購入した際のジャスティン・サン。Photo: AFP via Getty Images
マウリツィオ・カテランの《Comedian》を購入した際のジャスティン・サン。Photo: AFP via Getty Images

中国の大富豪、ジャスティン・サンが、ドナルド・トランプ大統領が発表したミームコイン「$TRUMP」を1億ドル(約148億円)分購入すると、7月10日にXに投稿した。このミームコインは、彼が設立した暗号通貨プラットフォームTRONで取引できるようになる見通しだ。サンの投稿には次のように記されている。

「1億ドル分の購入は、@GetTumpMemesといったコミュニティとともに、暗号通貨界を発展させるために、エコシステムを超えた協力を模索している私たちの信念を表しています。#MAGAの通貨である$TRUMPが#TRONで取引できるようになります!」

今回のミームコイン大量購入に限らず、サンはたびたび世間を騒がせてきた。彼は2024年12月にマウリツィオ・カテランの「バナナを壁にダクトテープで貼り付けた」作品《Comedian》(2019)を624万ドル(当時の為替で約9億7000万円)で落札し、話題となった(なお、このバナナはのちにサンが食べている)。また、サンはトランプ一族が関与する別の暗号通貨「$WLFI」にも7500万ドル(約111億円)を投資していたことが、ニューヨーク・タイムズ紙の調査で明らかになっている。

暗号通貨関連のほかにも、サンは話題に事欠かない。例えば彼は、音楽業界の重鎮で著名なアートコレクターでもあるデヴィッド・ゲフィンを相手取り、ジャコメッティの彫刻作品《Le Nez》(1949-65)をめぐって訴訟を起こしている。自身が雇っていた人物が詐欺を働いてこの作品を不当に売却したと主張するサンに対し、ゲフィンは4月16日に反訴している

トランプ大統領は、1月17日に$TRUMPを発売しており、価値は数日で300%以上急騰した。しかし、3月になると暗号通貨の価値は急落し、購入した人々は約1200万ドル(約18億円)の損失を被った。法的な規制を逃れるため、「アートワーク」と表示されることが多いミームコインは、価値の騰落が非常に激しい。

さらに倫理面でも懸念が高まっている。倫理審査団体は、トランプ大統領が$TRUMPを保有していることにより、特定の支援者から利益供与を受ける可能性があると繰り返し警鐘を鳴らしてきた。中でも批判を集めたのが、2025年5月22日に開催された$TRUMPの主要購入者向けの夕食会とホワイトハウス見学ツアーで、ジャスティン・サンもこれに参加していた。

ガーディアン紙によれば、こうした動きを受け、ミームコインの購入額は1億4800万ドル(約220億円)にのぼったという。同紙の取材に応じた元連邦検察官のポール・ローゼンツワイグはこう語る

「建国の父たちは、指導者による自己利益の追求を最も恐れていました。だからこそ、憲法には自己利益に関する2つの禁止規定が明記されているのです。トランプ大統領のミームコインによる利益獲得は、憲法制定者たちが回避しようとしていたことの典型例です」

ハーバード大学で政治学を研究するスティーブン・レヴィツキーも同紙に対して、「これほど露骨な腐敗を、現代の民主政体において見たことはありません」と述べている。(翻訳:編集部)

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