宇宙の音は、やがて祈りのサウンド・スケープとなる──テリー・ライリー90歳記念コンサートレポート
2025年6月25日神奈川県立音楽堂で、テリー・ライリーの90歳を祝うコンサート「Kronos Quartet Plays Terry Riley」が開催された。ライリーの代表作《サン・リングズ》が日本初演され、ライリーも山梨から駆けつけた。

2025年6月25日、神奈川県立音楽堂にて、ミニマル・ミュージックの巨匠テリー・ライリーの90歳を祝うコンサート「Kronos Quartet Plays Terry Riley」が開催された。
本公演では、ライリーの代表作《Sun Rings(サン・リングズ)》がクロノス・クァルテットと合唱団やえ山組(指揮:岩本達明)によって日本初演され、満席の聴衆を魅了した。ライリー本人も山梨の自宅から来場し、客席からこの記念すべき瞬間を見届けた。
宇宙の響きと人間の祈り
《サン・リングズ》は、NASAが宇宙探査を通じて収集した「宇宙のノイズ」を素材に、弦楽四重奏、合唱、電子音を組み合わせた大規模作品。2022年に来日公演として本作の日本初演が予定されていたが、コロナ禍で中止になったため、今回はその“リベンジ公演”であり、何よりもライリー自身の強い希望によって実現したという。

開演19時。あたたかみのある木のホールにクロノス・クァルテットの精緻な弦の響きで幕を開けた。合唱団やえ山組の柔らかく力強い声が加わる。NASA提供の宇宙映像と連動した演出が視覚をも刺激し、会場はまるで銀河の中心にいるかのような没入感に包まれた。
透明感ある弦の響きと重厚なコーラス、電子音のうねり。それらが溶け合い、90分間にわたって「音の宇宙」が立ち上がってゆく。単なる音楽体験を超え、「祈り」「記憶」「存在」への問いを内包した壮大なサウンド・スケープだった。
ライリーとクロノスの深い共鳴
1964年の《In C》でミニマル・ミュージックの原点を切り拓いて以来、ライリーは即興演奏やインド古典音楽の要素を取り入れながら、ジャンルを越境する創作を続けてきた。そんなライリーとクロノス・クァルテットとの出会いは1978年に遡る。以来ライリーは、彼らのために27曲もの弦楽四重奏曲を提供し、両者の共作は現代音楽の地平を大きく広げてきた。

今回の演奏は、その友情と創作の集大成とも言えるものだった。
とりわけ、繰り返し登場するフレーズ「One Earth, One People, One Love(ひとつの地球、ひとつの人類、ひとつの愛)」という言葉は、音楽の中で反復されるたびに聴衆の耳、身体に浸透し、やがて「祈り」の意味として昇華されていく。世界の分断が深まる今、この音楽は、希望と連帯のメッセージとして胸に深く響いた。
《サン・リングズ》は、宇宙という人知を超えた存在と、人間の精神性という内面を結びつける稀有な作品だ。クロノス・クァルテットとやえ山組の一糸乱れぬパフォーマンス、そしてステージを見守るテリー・ライリー本人の存在が、この一夜を永遠の記憶へと変えた。
90歳を迎えた今もなお、ライリーは日本で、日々音楽と対話し続けている。その姿こそが、音楽という表現の持つ無限の可能性を、私たちにあらためて示しているのかもしれない。