レディオヘッドのビジュアル世界──音楽と絵画が交差する展覧会に賛否両論

レディオヘッドのアルバムジャケットを手がけてきたトム・ヨークとアーティストのスタンリー・ドンウッドによる展覧会「This is What You Get」が、オックスフォードのアシュモレアン博物館で開幕した。長年にわたるコラボレーションの軌跡に加え、未公開のスケッチブックや近作の絵画も初公開されている。

イタリア・ローマで演奏するトム・ヨーク。Photo: Roberto Panucci - Corbis/Corbis via Getty Images
イタリア・ローマで演奏するトム・ヨーク。Photo: Roberto Panucci - Corbis/Corbis via Getty Images

レディオヘッドのフロントマンであるトム・ヨークとともに、バンドの(そしてヨークがソロなどで発表する)アルバムのジャケットを1995年の『The Bends』以来手がけているスタンリー・ドンウッド。そんなドンウッドによる「This is What You Get」と題された展覧会が、イギリス・オックスフォードのアシュモレアン博物館で開催中だ。この展覧会では、二人で手がけたジャケット以外にも、これまで公開されてこなかったスケッチブック、そして近作の絵画が展示されている。

レディオヘッドは1991年に大手レーベルのEMIと6枚のアルバムを制作する契約を結んだが、ヨークはデビューアルバム『Pablo Honey』のジャケットデザインに満足していなかった。そこで、次作の『The Bends』を制作する前に、エクセター大学で美術と英文学をともに学んだドンウッドに協力を仰いだ。以来ドンウッドは、レディオヘッドが発表した9枚のスタジオアルバムや数々のEP、ヨークのソロ活動およびサイドプロジェクトであるアトムズ・フォー・ピースやザ・スマイルなどのアルバムを、およそ30年にわたって手がけている。

長年のコラボレーションの成果を展覧会で披露するにあたり、ヨークはその図録の中で、「ビジュアルアーティスト」と名乗ることに不安を抱いていると明かしている。なぜなら、イギリスの音楽業界には「ミュージシャンがアーティストになることは不可能であり、その逆も同様だ」という風潮があり、それが自分にも染みついているからだ。一方、ドンウッドはいずれの表現形態に明確な違いはないとし、「両方の芸術形態は同時に進化していて、どちらも同じ場所に止まらない」と述べている。さらにヨークはアートニュースペーパーに対し、音楽業界に閉塞感を覚えていたのと同じく、1990年代から2000年代初頭にかけてのアート界にも、内輪的な空気を感じていたと語っている。

「ぼくたちの実生活とアート界はかけ離れた世界だという感覚が強くあった。アート界は内輪だけで成り立っているようなシステムのように思えたから。だからぼくたちは、誰もが手にできるアルバムジャケットという形でアートを届けようと考えた。人々がコレクションする作品もあれば、体験できるアートがあってもいいんじゃないか、と」

とはいえ、8月6日から開催されている「This is What You Get」に対するレビューの中には、かなり辛辣なものもある。ガーディアン紙は、レディオヘッドのジャケットがもつ文化的重要性を強調しながらも、「芸術として特に優れているわけではない」と一蹴し、こう締めくくっている

「レディオヘッドのファンなら、制作秘話などの知見に面白みを感じられるかもしれない。だが、アートの観点から見ると、できの悪い絵画が展示されている空間にすぎない。ドンウッドとヨークはアート界に身を置くべきではなかったが、これは自業自得だと言える」

一方でインディペンデント紙のレビューは、本展は音楽とビジュアルアートの融合に成功していると評価している。レディオヘッドのファンだけでなく、音楽とアートの融合に興味のあるすべての人にとって魅力的であるとして、「アート・スノッブたちよ気をつけろ。イギリスで最も謎めいたバンドは、驚くほど気軽に楽しめる展覧会を手がけている」とレビューを結んだ

評価は分かれるものの、ヨークはビジュアルアーティストとして活動することに前向きな姿勢を見せているようだ。アートニュースペーパーの記事の中でも、今後はアート作品の制作にも積極的に取り組む考えだと語っている。ドンウッドもまた、今年の秋から新たな制作期間に入り、二人で新作づくりに注力するという。

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