「Kカルチャーの旗振り役」韓国元大統領夫人が逮捕。過去にロスコやジャコメッティ展を企画
自らを「Kカルチャーのセールスパーソン」と称していた韓国の元大統領夫人が、8月12日夜に逮捕された。贈収賄、株価操作などの罪に問われている同夫人は、かつて自身の会社で超一流アーティストの展覧会企画に携わっていたアートラバーでもある。

8月12日、韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)前大統領の妻、金建希(キム・ゴンヒ)が、株価操作や収賄など複数の容疑で逮捕された。同日、特別検察官がキムの逮捕状を発布するかどうかの審問を行い、キムは全ての容疑を否認していたが、裁判所は証拠隠滅の恐れがあるとして逮捕に至った。
その容疑には、2009年から12年にかけてのドイツ車輸入販売会社の株価操作や、22年と24年の選挙介入疑惑、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の元幹部から知人を通じて高級ブランドのバッグや宝飾品を受け取ったあっせん収賄の疑いなどが含まれ、計16の事件について捜査が進められている。
韓国メディアが伝えるところによると、家庭連合のほかにも政府人事への口利きの見返りとして、総額1000万円を超えるブランド品が贈られたという。
韓国のファーストレディになる前、キムは自らが経営するコバナ・コンテンツで大規模美術展の企画に携わっていた。2009年のアンディ・ウォーホル、10年のマルク・シャガール、15年のマーク・ロスコ、16年のル・コルビュジエ、18年のアルベルト・ジャコメッティなど、大物作家の展示を次々と手がけたが、22年の夫の大統領就任直後に代表を辞任している。
2023年にアメリカを公式訪問した際には、ジル・バイデン米大統領夫人(当時)とともにワシントンD.C.のナショナル・ギャラリーに展示されているロスコの絵画を鑑賞。マーク・ロスコが特に好きだというキムは、同年のアートネット・ニュースによるインタビューで、スティーブ・ジョブズが最後の数年間にロスコの研究を続けていたことに触れ、こう述べている。
「ロスコは人々の心を癒す絵を描きました。その作品を見て涙した人もたくさんいます。2006年に初めて彼の作品を見たとき、私もとても感動しました」
また、同インタビューでキムは、「私たちの文化を広めるKカルチャーのセールスパーソン、そして文化外交で大統領と政府をサポートするファシリテーター」として、自らの役割を果たしたいと語っていた。
キムの夫であるユン前大統領は、昨年12月3日夜に非常戒厳を宣布したが、国会が解除の要求を議決したため翌朝これを解除。今年1月に内乱罪で起訴され、4月には憲法裁判所が罷免を決定した。失職したユンは7月に逮捕され、ソウルの拘置所に収容されている。韓国ではこれまでも大統領経験者が収監される例はあったが、配偶者も同時に収容されるのは史上初めて。