70年の歴史で初──ドクメンタ16、女性だけのキュレーターチームを発表
2027年6月12日から9月19日まで開催される「ドクメンタ16」の芸術監督ナオミ・ベックウィズが、女性だけで構成される「アーティスティック・チーム」を発表した。これはドクメンタの70年の歴史の中で初となる。

ドイツのカッセルで5年に1度開催される芸術祭「ドクメンタ」の2027年版芸術監督であるナオミ・ベックウィズは、共に芸術祭を率いるチームを発表した。
メンバーは、カーラ・アセベド=イェーツ、ロミ・クロフォード、マイラ・A・ロドリゲス・カストロ、シャオユー・ウェン(翁小雨)の4人。1955年のドクメンタ創設以来、女性だけで構成されるチームが手がけるのはこれが初となる。彼女たちはベックウィズと共にドクメンタ16の展覧会や出版物、プログラムを企画することになる。
カーラ・アセベド=イェーツは、カリブ海とラテンアメリカのディアスポラに焦点を当てた南北アメリカの現代美術を専門とするキュレーター・研究者で、ミシガン州立大学ブロード美術館とシカゴ現代美術館での勤務経験を持つ。最近の実績では、カリブ海地域と繋がりのある28人のアーティストの作品を集めた展覧会「Forecast Form: Art in the Caribbean Diaspora 1990s – Today」(2023年、シカゴ現代美術館、ボストン現代美術館)と、プエルトリコとシカゴを結ぶ芸術的系譜と社会運動を考察する展覧会「entre horizontes: Art and Activism Between Chicago and Puerto Rico」(2024年、シカゴ現代美術館)がある。
シカゴ美術館附属美術大学の教授を務めるロミ・クロフォードは、アメリカ視覚文化(美術、映画、写真など)における人種と民族の問題を探求する研究活動で知られる。特にブラック・アーツ・ムーブメントの思想と美学に焦点を当てており、バーチャルスクール「ブラック・アーツ・ムーブメント・スクール・モダリティ」と「ニュー・アート・スクール・モダリティ」の創設者でもある。
作家・編集者であるマイラ・A・ロドリゲス・カストロは、アーカイブ、詩、歌、土地などに潜む隠れた記述に目を向けている。おもな著作はオードレ・ロードの講演集『Dream of Europe: Selected Seminar and Interviews, 1984-1992』(2020)、フランソワーズ・ヴェルジェスとの対談『Another Sun』(2026年刊行予定)など。
シャオユー・ウェンは作家・キュレーター。交差的な視点と学際的なアプローチで、グローバル化、フェミニズム、アイデンティティ、脱植民地化などをテーマに、生態学的・環境的変革に焦点を当てた実践を展開してきた。グッゲンハイム美術館に勤務していた2020年には、パンデミックによって露呈したアジア人差別について現代アーティストの視点から検証する連載記事を発表した。その後オンタリオ美術館の近現代美術部門を率い、このほど新たにニューヨークのオルタナティブスペース「アート・イン・ジェネラル」の館長に任命された。同職を務めながら、タノト美術財団の運営も手伝う予定だ。
芸術監督のナオミ・ベックウィズはチーム発表の声明で、「このチームでドクメンタ16を手がけられることに感謝しています。私は彼女たちが持つ精神と思考の独立性を尊敬しています。これはアーティストや観客への深い敬意から生まれるものです。現在の芸術活動のさまざまな分野を共に探求し、地球の多様な社会・文化の風景とその未来を形作る巨大な課題と対話できることを楽しみにしています」とコメントした。
ドクメンタは「反ユダヤ主義」で揺れた前回の状況をひきずり、ベックウィズが芸術監督に選出されるまでにさまざまな紆余曲折があった。2023年11月には、主催側が選考委員の1人を反ユダヤ主義的であると糾弾したことを機に選考委員会が総辞職する事態に発展し、計画は白紙に。2024年に全く新しい選考委員会が組織され、同年末にベックウィズが選出された。
ベックウィズはドクメンタを統括する初の黒人女性であり、2012年のカロリン・クリストフ=バカルギエフに続いて2人目のアメリカ出身の芸術監督でもある。選考委員会会長でカッセル市長のスヴェン・シェーラーは、ベックウィスの任命を「ドクメンタの新たな未来の始まり」と呼んだ。(翻訳:編集部)
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