黒人によるアートの歴史に光を──ゲティ財団、全米7機関に総額2億円超の助成金
ゲティ財団は、「ブラック・ビジュアルアート・アーカイブズ」プログラムの一環として、アメリカ国内7つの図書館、博物館、大学に、総額150万ドル(約2億2000万円)の助成金を授与した。このプログラムは、アフリカ系アメリカ人アーティストの活動記録や資料の保存・公開を推進することを目指している。

ゲティ財団は、進行中の「ブラック・ビジュアルアート・アーカイブズ」プログラムの一環として、アメリカ国内の7つの図書館、博物館、大学に総額150万ドル(約2億2000万円)の助成金を授与した。
今回の助成対象となったのは、ニューオーリンズのアミスタッド・リサーチ・センター、カリフォルニア州立大学ロサンゼルス校、クラーク・アトランタ大学、アトランタのエモリー大学、ペンシルベニア州のリンカーン大学、ワシントンD.C.のスミソニアン・アナコスティア・コミュニティ博物館、そしてニューヨークのビジュアルAIDS。助成対象の選定にあたっては、アフリカ系アメリカ人アーカイブを専門とするアーキビストでコンサルタントのドミニク・ラスターが協力した。助成金申請は随時受け付けているという。
今回の新たな助成により、「ブラック・ビジュアルアート・アーカイブズ」プログラムの総支援額は260万ドル(約3億8000万円)に達した。2022年にはパイロット版として、アナコスティア博物館のほか、シカゴ公共図書館、ナッシュビルのフィスク大学、ニューヨーク公共図書館、フィラデルフィアのテンプル大学にも助成が行われている。
この複数年にわたるプロジェクトが目指すのは、特にアフリカ系アメリカ人アーティストが手がけた作品に関する資料へのアクセスを拡大することだ。アーキビストたちにとっては、これらの資料を整理、目録化、デジタル化する機会となり、未整理のまま残されていた資料や調査が難しい記録、散逸していた資料を一つにまとめる契機になる。
たとえばエモリー大学は、この助成を活用して専任のアーキビストを3年間にわたって雇用し、現在90歳のドキュメンタリー写真家、ジム・アレクサンダーの資料整理に取り組む予定だ。アレクサンダーはプロジェクトの一環として自身の口述史も残す計画。エモリー大学のアフリカ系アメリカ人コレクションのキュレーター、N’Kosi Oatesは、US版ARTnewsの取材に対し、「彼の写真とレガシーに重要な文脈を与えることになる」と語り、こう続けた。
「アトランタを代表するこのドキュメンタリー写真家のコレクションを、教育、研究、地域社会との交流のために、生きた資源として保持し続けられる機会を大切にしたいと考えています」
記録の整理やデジタル化を起点に、展覧会やプログラムなど多様なプロジェクトも派生している。2022年の助成対象となったニューヨーク公共図書館は、この助成を活用してシュロンバーグ・センター(黒人文化研究所)が主催した美術展の歴史を紹介するデジタル・ジンを制作。同じく、フィラデルフィアのテンプル大学は、かつて同市で唯一の黒人所有ギャラリー兼社交クラブだったピラミッド・クラブが企画した歴史的展覧会を題材に、アーカイブ研究のプロセスを体験できるVRゲームを開発している。
こうしたプログラムの初期成果は、8月24日から27日にカリフォルニア州アナハイムで開催される全米アーキビスト協会年次大会で発表される予定だ。
ゲティ財団による「ブラック・ビジュアルアート・アーカイブズ」支援の継続は、現政権下でこの種の取り組みが逆風に直面している状況においても続けられている。同財団はこれ以外にも、「ブラック・モダニズム保存プロジェクト」「アフリカ系アメリカ人歴史的建築物:ロサンゼルス」「アフリカ系アメリカ人美術史イニシアチブ」、さらに20世紀建築家ポール・R・ウィリアムズのアーカイブ共同取得など、黒人文化遺産を支援する複数のプロジェクトを進めている。
ゲティ財団のシニア・プログラム・オフィサー、ミゲル・デ・バカは声明でこう述べている。
「アフリカ系アメリカ人アーティスト、建築家、文化機関が果たした影響をより深く理解することは、アメリカ美術と文化の歴史をより包括的に語るために不可欠です。その実現に向けて、アーカイブへの投資は大きな一歩になります。ブラック・ビジュアルアート・アーカイブズは、アーカイブやそこに記録された創造性、レジリエンス、共同体の物語を研究者や一般により広く届けるために、極めて重要な支援を提供しています」
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