米国は「美術賞の秋」! 受賞者まとめ:ハインツ・アワード、ホイットニー・ビエンナーレ・バックスバウム賞、カーネギー国際賞
日本では「芸術の秋」を迎え、各地で様々なアートイベントが開催されているが、米国では美術賞の受賞者発表シーズンのようだ。このほど相次いで報じられた、3つの美術賞のニュースをまとめてご紹介する。
世界最大級の美術賞、ハインツ・アワードはヴァネッサ・ジャーマンとコーリーン・スミスが受賞。賞金は25万ドル(約3700万円)
アーティストのヴァネッサ・ジャーマンとコーリーン・スミスが、世界最大級の芸術賞であるハインツ・アワードを受賞し、それぞれ25万ドル(約3700万円)の賞金を手にした。
ジャーマンは、ビーズや、布、タカラ貝、ガラスなどで装飾された立体作品が特徴。過去には、ジョージ・フロイドやブリオナ・テイラーなど、人種差別的な殺人事件の犠牲者のために、祭壇のような作品を制作したこともある。
ハインツ・ファミリー財団の会長であるテレサ・ハインツは、受賞理由について「ヴァネッサの大胆で示唆に富む作品は、彼女の地域密着型のプログラムとともに、その精神を明確に反映しています。芸術へのこだわりだけでなく、見る人を包み込んで、直面するものと癒すものの両方の経験をもたらす作品となっています」と説明する。
実験映像作家として知られているスミスは、インスタレーションや彫刻作品も制作しており、最近ではロサンゼルス郡美術館とフィラデルフィア現代美術館で開催された展覧会にも参加している。スミスはしばしば、作品の中で別の未来を想定し、その中心には黒人社会が存在する。彼女は、B級映画やSFを参考にしており、映像やインスタレーションに他の芸術作品の引用を織り交ぜている。
ハインツはスミスについて「現代で最も注目される黒人実験映画作家の1人であるコーリーンは、深い想像力を駆使して、変革を迫られている社会問題に鋭い光を当てています」と評価する。
※本記事は、米国版ARTnewsに2022年9月22日に掲載されました。元記事はこちら。
米国アートシーンの最先端を伝えるホイットニー・ビエンナーレのバックスバウム賞は振付師・アーティストのラルフ・レモンが獲得。賞金は10万ドル(約1400万円)
ホイットニー美術館が10万ドル(約1400万円)の賞金を授与するバックスバウム賞は、毎年開催されるホイットニー・ビエンナーレで毎回1人のアーティストに贈られる。今回は振付師でコンセプチュアル・アーティストのラルフ・レモンが選ばれた。
レモンは、非常に抽象的で、強烈な印象を与えるダンスでよく知られており、多くのアーティストから尊敬を集めている。今年のホイットニー・ビエンナーレでは、「25年以上にわたって制作した数百枚の抽象的なドローイングを、展覧会期間中、5つの月替わりのバリエーション」にして、壁に画鋲などで展示。ある作品は、プレビュー中にレモンの解説文の上に貼られたたこともあった。
その奇妙な展示法には賛否両論あるようだが、ホイットニーのチーフ・キュレーター、スコット・ロスコフは声明で、「彼の作品群は、パフォーマンス、彫刻、ドローイングなどに関するパラダイムを転換させ、またそれらの間の区別について、厳格さ、倫理観、ユーモア、そして心をこめて表現しています」と評価している。
※本記事は、米国版ARTnewsに2022年9月22日に掲載されました。元記事はこちら。
過去にはピカソや河原温も受賞。名門カーネギー国際賞の最高賞はラトーヤ・ルビー・フレイジャー
アーティストのラトーヤ・ルビー・フレイジャー、マルコム・ピーコックとアーティスト・コレクティブ(集団)のハイフン—が、それぞれ第58回カーネギー国際賞を獲得。9月16日にピッツバーグのカーネギー美術館で開かれた展覧会のオープニングを祝うガラで表彰された。
フレイジャーは最高賞となるカーネギー・プライズ、ピーコックとハイフン— は、2008年に創設されたファイン・プライズを受賞した。
フレイジャーには1896年の創設以来、受賞者に贈られているティファニー社製のメダルが贈呈された。過去のカーネギー・プライズ受賞者は、ジョージ・ベローズ、アンリ・マティス、パブロ・ピカソ、アントニ・タピエス、アレクサンダー・カルダー、エルズワース・ケリー、ヨゼフ・アルバース、ウィレム・デ・クーニング、河原温、ニコール・アイゼンメン、リネット・イヤドム・ボーキーなど。
フレイジャーの受賞作、「More Than Conquerors(征服者を超えて)」のシリーズは、現在進行中のパンデミックにおけるボルチモアのヘルスワーカーとコミュニティリーダーの取り組みに焦点を当てている。
カーネギー美術館の館長であるエリック・クロスビーは、受賞理由について「世界的なパンデミック時の地域医療従事者への緊急かつ共鳴的なフレイジャーの作品は、常に現代を出発点としてきたカーネギー国際展の歴史の力強い貢献となっています」と述べている。
マルコム・ピーコックは黒人の感情的、精神的、そして物理的な空間について考察した《The insistent desire for and impossibility of being (執拗なまでの欲望と不可能性)》、インドネシアのジョグジャカルタを拠点とするハイフン—は、画家クスティヤ(1934-2012)の人生と作品を題材にした《As if there is no sun(まるで太陽が無いかのように)》で受賞した。
※本記事は、米国版ARTnewsに2022年9月26日に掲載されました。元記事はこちら。