ゴッホの希少作品に60億円近い予想額。名品揃いのプリツカーコレクションが11月にサザビーズのセールへ
11月にサザビーズ・ニューヨークで予定されているオークションに、数十年にわたり一般の目に触れることのなかったゴッホやゴーギャン、マティスなどの傑作が出品される。これらの作品は、有名な建築賞であるプリツカー賞や、世界的ホテルチェーンのハイアットを創業したことで知られるプリツカー家の秘蔵コレクションだったもの。

今秋、ニューヨークのサザビーズは、新本社のブロイヤービルで初のオークションシーズンを迎える。中でも注目されるのが、世界的なホテル事業や優れた建築家に贈られるプリツカー賞で知られるシンディ&ジェイ・プリツカー夫妻のコレクションだ。数十年にわたりシカゴの邸宅に飾られていたプライベートコレクションの一部が11月のオークションに出品される予定で、落札総額は1億2000万ドル(約176億円)を超えると見られている。
その目玉となるのが、机の上に積み上げられた黄色い本を描いたフィンセント・ファン・ゴッホの《Romans Parisiens (Les Livres jaunes)》(1887)だ。ゴッホが本を題材とした静物画は9点しかなく、個人蔵のものはそのうち2点。プリツカー家の書斎に飾られていたこの絵は、長年シカゴで公共図書館の理事長を務めていた故シンディ・プリツカーにふさわしい作品だったと言える。また、約4000万ドル(約59億円)という予想落札価格は、近年市場に出た中で最も重要なゴッホの静物画の1つであることを示している。
ポール・ゴーギャンの《La Maison de Pen du, gardeuse de vache》(1889)は、ブルターニュの海岸を背景に牛飼いを描いたもので、ゴーギャンの筆致がより大胆に、色彩がより豊かになったポン=タヴァン時代の作品だ。ここで得た友人とともにパナマやマルティーニク島を訪れたゴーギャンは、のちに二度タヒチに滞在して傑作を残している。予想落札価格は600万から800万ドル(約9億~12億円)。

アンリ・マティスの《Léda et le cygne》(1944-46)は、パリの外交官の邸宅のために制作された高さ約180センチの三連画で、3年の月日をかけて完成したもの。ギリシャ神話を題材としたこの作品の中央パネルには、スパルタ王の妻レダと主神ゼウスが姿を変えた白鳥が描かれ、鮮やかな赤のサイドパネルには葉の文様が刻まれている。予想落札価格は700万ドルから1000万ドル(約10億3000万〜14億7000万円)。

マックス・ベックマンの《Der Wels》(1929)は、大ナマズを掴んだ漁師を女性たちが驚きの表情で見つめる様子が描かれた寓意画だ。制作当時パリに住んでいたベックマンは、この魚を活力と脅威の象徴として描き、生命の持つ欲望を力強いイメージに凝縮している。予想落札価格は500万から700万ドル(約7億4000万~10億3000万円)。
エルンスト・ルートヴィヒ・キルヒナーの《Hallesches Tor, Berlin》(1913)は、緑がかった青で描かれた線路や橋が、カーブした川の構図とともに活気ある都市の様子を捉えている。キルヒナーがベルリンの街並みを描いた作品で、美術館に所蔵されていないものとしては最大級のものだという。予想落札価格は300万ドルから500万ドル(約4億4000万〜7億4000万円)。
そのほか、ジョアン・ミロが晩年に制作したブロンズ像《La Mère Ubu》とカミーユ・ピサロが1872年にオワーズ河畔を描いた《Bords de l’Oise à Pontoise》の予想落札価格は、それぞれ400万から600万ドル(約5億9000万~8億8000万円)と120万から180万ドル(約1億8000万~2億6000万円)。珍しいところでは、ペトルス・ロゼッリによる15世紀の羅針儀海図も出品される。(翻訳:石井佳子)
from ARTnews