DIC川村記念美術館のコレクションがクリスティーズに委託。11月のオークションでモネ《睡蓮》が59億円予想で出品
9月19日、DIC株式会社は、DIC川村記念美術館コレクションから主要な作品80点の販売をクリスティーズに委託することを発表。その中から20点程度が、今年11月中旬にクリスティーズ・ニューヨークで開催するオークションに出品される。

DIC株式会社は、DIC川村記念美術館コレクションから主要な作品80点の販売をクリスティーズに委託することを9月19日にリリースで発表した。その中で、「特に著名且つ経済的価値が高い作品」20点については今年11月中旬からクリスティーズ・ニューヨークで開催されるオークションに出品する。
出品作品はクロード・モネ、ピエール=オーギュスト・ルノワール、マルク・シャガール、アンリ・マティス、ヘンリー・ムーアの作品が含まれている。中でも注目は、モネの《睡蓮》(1907)で、低額の予想落札価格は4000万ドル(約59億円)となっている。同作について、クリスティーズの20世紀イブニングセール共同責任者のイモージェン・カーは以下のように評した。
「この作品は、『睡蓮』シリーズがモネのキャリアにおいて最も偉大で輝かしいものとして知られる所以を、特に鮮やかで美しく力強く示す好例です。この作品の力強い縦の構図は、モネの作品全体を通して見られる日本美術の重要な影響を物語っています。クリスティーズはこれまで、20世紀イブニングセールの文脈において、印象派の最高傑作、特にモネの作品を扱い、成功してきました。モネの魅力は類まれなほど普遍的です―私たちはアメリカ、ヨーロッパ、中東全域から、特にアジアのコレクターたちがモネの作品を求めてオークションに参加するのを見ています」
ルノワールの名品《水浴する女》(1891)も出品される。クリスティーズの印象派・近代美術副会長のシアンヌ・チャトコーは同作について、声明で次のように述べている。
「彼が最も好んだ題材の一つである女性の裸体を描いた傑作です。1891年に制作されたこの作品は、印象派特有の色彩と光の戯れを表現力豊かな筆致で描き出しており、名高い官能的な美の表現を体現しています」
また、クリスティーズはシャガールの《ダビデ王の夢》(1966)と《赤い太陽》(1949)が出品されると発表した。これらの作品は11月のクリスティーズ20世紀イブニングセールの8作品からなるグループに含まれ、それ以外の作品は、後日開催される印象派・近代美術および戦後・現代美術のデイセールで売却される予定だ。
大手化学メーカーのDIC株式会社が運営していた千葉・佐倉市のDIC川村記念美術館は、1990年にオープンした。その30年以上に渡る歴史の中で、マーク・ロスコの「シーグラム壁画」7点やサイ・トゥオンブリー、パブロ・ピカソ、レンブラント、ジャクソン・ポロック、アンディ・ウォーホル、ロバート・ライマンの絵画を含む珠玉のコレクションを築いてきた。だが同館の理事会は2024年8月に美術館を休館する意向を明かし、周囲からの反発を受けて12月に同館の「縮小と移転」を決定。美術館が所有する754点のうち、384点の美術品の販売を検討すると発表した。9月19日に公開したリリースによると、その後、そこから同社のアイデンティティを象徴する作品群を1/4程度(100点程度)に絞り込み、残る3/4程度(280点程度)を売却するプロセスを検討したという。
DIC株式会社は以前、美術品の売却により「2025年度に少なくとも100億円の現金流入を目指す」と明かしていたが、リリースではクリスティーズへの委託により「従前の発表方針を実現できると確信しております」と述べている。
クリスティーズが「最も卓越したコレクターたちにとって、日本屈指の西洋美術コレクションの一つから作品を入手する稀な機会」と評する今回のオークションは、世界中のコレクターが注視することは必至で、それは優れた美術品が日本から流出することを意味する。昨年9月、美術館休館の可能性が報じられた時には、コレクターで実業家の前澤友作がXに以下のコメントを投稿しており、前澤の動向にも注目が集まる。
「DIC川村記念美術館休館の件。もしコレクションを売却するという方向なら、数々の名作が日本から出ないように、まずは日本の買い手にアプローチして欲しいな。僕も待ってます」
「土地でも自然でも美術品でも伝統文化でも日本古来のものはなるべく日本人が守っていかないと。目先の利益のためにバラで切り売りしていくと日本が日本じゃなくなっちゃう。未来の世代に継承すべきものを自分が買い受けて引き継げるくらい稼がないとな」
DIC川村記念美術館は、今年3月31日に同地での営業を終えた。その後は東京・六本木の国際文化会館で新拠点をに開館させ、ロスコの「シーグラム壁画」7点を含むコレクションを展示することを明らかにしている。だが今年4月上旬、DIC株式会社の大株主である香港を拠点とするアクティビスト・ファンドのオアシス・マネジメントは、DICの川村喜久取締役と国際文化会館の密接な関係を指摘し、「資産の富や支配権を川村取締役の影響下にある特定の人物や組織に移すことで、株主の正当な資産を奪おうとしている」と批判した。(翻訳:編集部)
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