マリーナ・アブラモヴィッチがルネサンスの傑作と対話。来年、ヴェネチアで大規模展を開催

パフォーマンス・アートの世界的第一人者で、今年7月に第36回高松宮殿下記念文化賞(彫刻部門)を受賞したマリーナ・アブラモヴィッチの個展が、2026年にイタリアヴェネチアアカデミア美術館で開催される。1817年に開館したこの由緒ある美術館で、存命の女性アーティストが展覧会を行うのは初めて。

マリーナ・アブラモヴィッチ。イタリア・トリノにて2024年撮影。Photo: Stefano Guidi/Getty Images

世界で最も有名なパフォーマンス・アーティストの1人で、インパクトのある立体作品や写真でも知られるマリーナ・アブラモヴィッチ。その彼女が80歳を迎える2026年、ヴェネチアで大規模個展「Marina Abramović: Transforming Energy(マリーナ・アブラモヴィッチ:トランスフォーミングエナジー)」が開催される。

会場となるのは、ヴェネチア派の絵画を中心に、14世紀から18世紀の貴重な作品を多数所蔵するアカデミア美術館だ。会期は2026年5月6日から10月19日までで、第61回ヴェネチア・ビエンナーレ(5月9日〜11月22日)と並行して行われることになる。

この「トランスフォーミングエナジー」展は、2024年秋から今年にかけ、上海の藝倉美術館(MAM上海)で開催されている。150点の展示品の多くは石英やアメジスト、トルマリンなどの鉱物を用いた作品で、中には、ベッドや浴槽、椅子など、家具を思わせるものもあった。

セルビア生まれのアブラモヴィッチが、ヴェネチア・ビエンナーレを初めて目にしたのは1960年だという。母と共にヴェネチアを訪れたときの感動や、その後の関わりを、彼女はアートネット誌にこう語っている。

「(ヴェネチアは)信じられないほど美しく、それまで見た何物とも違っていました。以来、ヴェネチアを訪れることが恒例になり、1997年に金獅子賞を受賞してからは特に、私の人生における特別な場所になっています」

12世紀から何度も改修を経てきた建物を拠点とするアカデミア美術館の個展では、アブラモヴィッチの「一時的な物体(transitory objects)」が、常設コレクションの歴史的名作と並んで展示される。

この「一時的な物体」とは、彫刻という表現を好まないアブラモヴィッチが用いる言葉だ。その理由を彼女は、「重要なのは物体そのものではなくエネルギーだから」と、昨年US版ARTnewsの姉妹誌であるArt in Americaに語っている。

アカデミア美術館は、2022年のアニッシュ・カプーア展など、これまでも現代アートの展覧会を実施してきた。しかし、ティツィアーノ、ティントレット、ジョルジョーネ、マンテーニャなどによるルネサンス期の傑作と現代アーティストの作品が対話するような展示を行うのは、今回が初めの試みだ。

その中で、最もドラマチックな組み合わせになるのは、アブラモヴィッチの写真作品《Pietà (with Ulay)(ピエタ [ウーライとともに])》(1983)と、ティツィアーノの絶筆《ピエタ》(1575–76)だろう。

十字架から降ろされたキリストを抱いて悲しむ聖母マリアを題材としたこの写真では、赤いストラップレスドレスをまとったアブラモヴィッチが、白い衣装で亡骸に扮したウーライを膝の上で抱きかかえている。ウーライは彼女のかつてのパートナーであり作品のコラボレーターでもあったが、2020年に死去した。(翻訳:石井佳子)

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