ローマ時代の「エジプト神」図像、トルコの浴場遺跡から初出土。精緻な大理石彫刻は装飾目的か
トルコ南西部サガラッソスのローマ時代の浴場跡から、古代エジプトの神々を描いた大理石彫刻が見つかった。専門家は、エジプト国外でこのような図像が発見されたのは初の事例であるとして高く評価している。

トルコ・サガラッソスのローマ時代の浴場跡で、大理石パネルに刻まれた古代エジプトの図像が発見された。専門家によれば、装飾目的でこのような図像が用いられたのは、エジプト国外では「初の事例」とされる。
発見されたのは、浴場の入り口上部のリンテル(まぐさ石=古代建築において梁の役割を持つ構造材)として用いられていたもので、そこには守護を象徴するスフィンクス神トゥトゥが描かれていた。また、その両脇にはエジプト全土の統一を象徴する二重冠(プシュレト)をかぶった2人の人物像もあった。これらの図像は、トゥトゥがエジプト全土を守護していることを示していたと考えられている。
さらに、天空・戦・王権の神ホルス(鷹の頭を持つ神)や、ナイル川・多産・守護の神ソベク(ワニの頭を持つ神)など、複数のエジプト神も精巧に彫られていた。
この大理石パネルは、ローマ皇帝アウグストゥスの治世であった紀元前27年から紀元14年にかけて制作されたものと考えられ、現在も発掘が進む浴場の冷浴室(フリギダリウム)から出土した。大理石の分析により、この石材はトルコ・アフィヨンカラヒサル地方からおよそ200キロ離れた場所で採掘されたものであることが判明している。
発掘調査を率いたトルコ・ビルケント大学考古学部長のピーター・タローエンはアナドル通信に対し、今回の発見についてこう語っている。
「昨年我々が行った、このアフィヨン産大理石に描かれた図像の再調査により判明した成果です。これは、ナイル流域外におけるエジプト神信仰の装飾表現を理解する上で、貴重な手がかりを与えてくれます」
さらにタローエンは、「エジプト国外でこのような図像が確認された例はほかにありません。サガラッソスの人々はエジプトの神々を崇拝していたわけではなく、純粋に装飾目的で用いたのです」と、その希少性を説明している。
サガラッソスは1万2000年以上にわたる人類居住の歴史を持ち、アクダー山の斜面に形成された初期集落に端を発する。ローマ皇帝ハドリアヌスの時代には「州第一の都市」と称され、当時ピシディア地方の主要都市として栄えた。1989年の発掘開始以来、多くの遺物が出土しており、現在はユネスコの世界遺産暫定リストに登録されている。
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