「ART TAIPEI」がもうすぐ開幕! 地域性と国際性、個と共同体など、多様な「交差」を意欲的に探求

1993年にスタートしたアジア最古の国際アートフェア「ART TAIPEI」が、10月24日から27日(一般会期)まで台北世界貿易センターで開催される。会期を前後して開催される「TAIPEI ART WEEK」とともに、台湾の多層的な文化の現在を映し出す大型アートイベントの見どころを紹介する。

Lead Image-Overhead View of the ART TAIPEI 2024 Exhibition Hall © Taiwan Art Gallery Association
2024年の「ART TAIPEI」の様子。Photo: ©Taiwan Art Gallery Association

2019年にスタートした台北當代が2025年5月の開催をもって事実上終了することが決まった台湾マーケットだが、アジア最古の国際アートフェアとして知られる「ART TAIPEI」を忘れてはいけない。1993年にスタートし、第32回を迎える今年は、2025年10月24日から27日まで台北世界貿易センターを舞台に、台湾国内外から120を超えるギャラリーが集結する。会期を前後して、10月18日から11月2日まで開催される「TAIPEI ART WEEK」とともに、台湾をアジアの芸術・テクノロジー・文化の交差点として位置づける大型イベントだ。

両イベントには、「Intersect: Diversity Equals Togetherness(交差すること──多様性が共生を生む)」という共通のテーマが掲げれられている。ジェンダー、民族、マイノリティといった社会的課題を背景に、アートを通じた包摂と対話の可能性を探る態度が込められている。主催のTaiwan Art Gallery Association(TAGA)会長、Claudia Chen Ching-Yingは、「多様性こそが現代アートの生命線。台湾の開かれた社会と高いテクノロジー水準は、アジアの芸術が未来へ向かうための実験場となる」と語る。

歴史と現代的文脈を結びつける多様な試み

今年の「ART TAIPEI」の中でも注目すべきは、6回目の開催を迎える「先住民アート展示エリア」だ。キュレーターのManray Hsuのもと、アジア・アート・センターと協働して企画されたこのプログラムには、Eleng Luluan、Milay Mavaliw、Siki Sufin、Laluyu Pavelav、Idas Losinら5名のアーティストが出展し、木彫やミクストメディアを通じて、土地の記憶、自然へのまなざし、そしてアイデンティティの再構築を探る。台湾先住民族の美学と現代的文脈を結びつける試みは、アジア全体における脱植民地的な表現潮流とも呼応している。

もうひとつの重要な展示「Hakka in Words and Images」では、言葉とイメージの両面から客家(ハッカ)文化の再解釈に挑む。Chung Shun-Wen、Cheng Jen-Pei、Musquiqui Chihying、そして文学者 Zham Bingらが、言語と視覚の間に潜む「語ること」と「描くこと」の関係を探る。

こうした歴史的文脈を尊重する取り組みがある一方で、現在の台湾を語る上で欠くことのできないのが「テクノロジー」だ。好調な半導体産業を背景に、いまや台湾は「世界のハイテク産業を支える要石」といえるが、今年の「ART TAIPEI」でもそれを象徴するように、映像を中心とした「FOCUS | Film Sector」が拡充される。キュレーターのTseng Yu-Chuanが考案した今回のテーマ「True(真実)」のもと、Sin Wai Kin、Jen Liu、Liao Chi-Yu らが、デジタル時代の身体・労働・社会構造を映像を通じて問い直す試みは、注目に値する。リアルとバーチャルが交錯する「技術と感性の融合」は、まさに現代アートを通じた台湾の世界的アピールともいえるだろう。

先住民アーティストの作品を通じて、伝統と現代を往還する独自のビジョンを提示するAsia Art Centerや梁画廊(Liang Gallery)、YIRI ARTSなど、注目の台湾勢に加えて、日本や韓国からの参加も見逃せない。日本のギャラリーの中でも特筆すべきは、今年のTokyo Gendaiへの参加を見送ったSCAI THE BATHHOUSEだろう。同ギャラリーは、名和晃平や宮島達男など、日本を代表する現代アーティストを紹介する。また、ホワイトストーン・ギャラリーは草間彌生の大作に加え、蔡國強の作品も出品する。ほかにも、小山登美夫ギャラリーミヅマアートギャラリー、√K Contemporaryなど、全24ギャラリーが日本から参加する。また、韓国のGana ArtやGallery Baton、香港のDE SARTHEなども交え、フェア全体が、東アジアの同時代的な対話を広げる場となっている。

都市を巻き込む文化の祭典「TAIPEI ART WEEK」

昨年開催された第2回「TAIPEI ART WEEK」の様子。Photo: ©Taiwan Art Gallery Association

アートフェアと並行して展開される「台北アートウィーク」は、100を超えるギャラリーや美術館、アーティストスタジオが参加する都市型プログラムだ。市内8つのエリアに分かれた展示ゾーンに加え、各地でオープニングイベントやパブリックアートが展開される。

その中心となるのが「Taipei Art Week Forum」。グッゲンハイム美術館のアレクサンドラ・モンロー、香港の大館(Tai Kwun)でアート部門を率いるピ・リ、そしてオランダ・ライクスアカデミー前ディレクターのエミリー・ペシックらが登壇し、「アジアがいかにグローバル・アートの未来を形づくるか」について議論する。台湾がアジアの文化的ハブとして果たす役割を国際的に発信する場となるだろう。

さらに新たな試みとして、「Asia in Conversation(The Collector Circle)」が始動。東アジア、東南アジアなど3地域のコレクターをつなぐネットワークを形成し、相互の文化理解と市場の協働を目指す。フェアやフォーラムと連動するこのプログラムは、アートを媒介にした「アジア横断的な連帯」を具現化する取り組みとしても注目したい。

また、都市を舞台にしたパブリックアート企画「City Treasures」も見逃せない。建築家 Yu Chih Hsiao のキュレーションのもと、Yang Yuyu の《The Arrival of the Phoenix》や《The Garden Outside the Birdcage》など、台北の象徴的な公共彫刻を再訪し、オンラインツアーやワークショップを通じて市民が「都市の記憶」を共有しなおす機会を創出する。街をめぐる「Art Bus」も初登場し、30以上のアートスポットを結ぶ。

先住民による作品からデジタル映像、パブリックアートまで、2025年の「ART TAIPEI」と「Taipei Art Week」は、「交差」をキーワードに、台湾の多層的な文化の現在を映し出す。テクノロジーと感性、地域性と国際性、個と共同体。そのあいだを往復するアートのあり方が、台北という都市のダイナミズムとともに可視化される重要な機会となるだろう。

あわせて読みたい