ルーブル美術館盗難宝飾品の経済的価値155億円は《モナリザ》に比べて低すぎる?
- TEXT BY ALEX GREENBERGER
10月19日にルーブル美術館で起きた強盗事件に関し、フランスの検察当局は盗まれた宝飾品の被害額が約155億円相当との推定を発表した。当局によると、犯人グループは小型のチェーンソーを持って窓から押し入り、わずか7〜8分で宝飾品を奪い、逃走した。

フランス・パリのルーブル美術館から10月19日に盗まれた9点の宝飾品について、被害額が8800万ユーロ(約155億円)に相当することを同国の検察当局が明らかにした。当初の発表では「計り知れない価値」と述べられていたが、その具体的な評価額が強盗事件発生から2日目に発表されたことになる。
しかし、捜査を担当する検察官のローレ・ベキュオーは、被害額はルーブル美術館による推定だとしたうえで、この金額にはフランスにとっての歴史的・文化的価値は含まれていないと指摘。ラジオ局のRTLの取材にこう答えている。
「宝飾品を奪った犯人たちが、もしこれらを個々の宝石に分解するという愚かな考えを抱いたなら、8800万ユーロという推定額に見合う稼ぎを手にすることはできないだろう。このことについてよく考え、宝石をバラしたり、金属を溶かしたりという無茶をしないことを願うばかりだ」
盗まれた9点の宝飾品には、皇帝ナポレオン・ボナパルトの2番目の妻マリー・ルイーズ皇后のエメラルドのネックレス、フランス王ルイ・フィリップの王妃マリー=アメリー王妃とナポレオンの義理の娘であるオルタンス王妃が着用したサファイアのネックレス、ナポレオン3世の妻ウジェニー皇后のティアラなどが含まれる。このウジェニー皇后のティアラには、ダイヤモンドだけで約2000個が使われている。
なお、9点のうち、犯人グループが逃走を急ぐ中で落としたと見られるウジェニー皇后の王冠は現場付近で発見された。残る8点の行方はまだ掴めておらず、回収の望みは薄いとする専門家もいる。
盗難事件の起きた19日から休館したままのルーブル美術館は、市民からも政治家からも厳しく批判されている。その一因として、関係筋にリークされた会計検査院の報告書が、同館の警備システムを「時代遅れで欠陥がある」と指摘していたことがある。
一方、21日に議会で演説したラシダ・ダティ文化大臣は、警備体制に不備があったことを否定し、AP通信の取材に「ルーブル美術館のセキュリティが機能不全に陥っていなかったことは事実です。警備体制は機能していました」と述べ、こう付け加えた。
「(この強盗事件は)私たち全員に傷を残しました。ルーブル美術館は世界最大の美術館である以上の存在です。フランス文化と私たちが共有する遺産を展示する場なのですから」
ルーブル美術館は、世界中のほとんどの美術館・博物館と同様、所蔵品の金銭的評価額を公表していない。しかし、もし盗まれた宝飾品の評価額が本当に8800万ユーロ(約155億円)なら、ルーブルが所蔵する他の歴史的な作品に比べてかなり価値が低いことになる。
たとえば、過去に一度盗難に遭ったことのあるレオナルド・ダ・ヴィンチの不朽の名作《モナリザ》は、少なくとも10億ドル(約1500億円)か、それ以上の価値があると広く認識されている。(翻訳:石井佳子)

1. ハンムラビ法典(紀元前1792-1750年頃)|Photo: Wikipedia Commons/Mbzt
2. コルサバードの有翼人面牡牛像(紀元前713-705年頃)|Photo: Copyright ©Musée du Louvre, RMN / Thierry Ollivier
3. 射手の壁面装飾(紀元前522-486年頃)|Photo: Copyright ©2015 Musée du Louvre / Thierry Ollivier
4. エビフ・イルの像(紀元前2500–2340年頃)|Photo: Copyright ©2011 Musée du Louvre / Raphael Chipault
5. カロママの像、アメンの神聖なアドラトリス(紀元前865-809年頃)|Photo: Copyright ©Musée du Louvre / Christian Décamps
6. タニスの大スフィンクス(紀元前2620-2500年頃)|Photo : Copyright ©Musée du Louvre, RMN / Christian Décamps
7. 書記座像(紀元前2620-2500年頃)|Photo: Copyright ©2015 Musée du Louvre / Christian Décamps
8. サモトラケのニケ(紀元前200-190年頃)|Photo: Copyright ©2014 Musée du Louvre / Philippe Fuzeau
9. ミロのヴィーナス(紀元前150-125年頃)|Photo: Copyright ©Musée du Louvre, RMN / Anne Chauvet
10. 夫婦の棺(紀元前520–510年頃)|Photo: Wikimedia Commons / Jérémy-Günther-Heinz Jähnick
11. ガビイのディアナ(紀元前4世紀)|Photo: Wikipedia Commons/Marie-Lan Nguyen
12. アル・ムギーラの小箱(968年)|Photo: Wikimedia Commons/Marie-Lan Nguyen
13. モンソンのライオン(975-1100年頃)|Photo: Wikimedia Commons/G. Garitan
14. レオナルド・ダ・ヴィンチ《モナリザ》(1503-1519)|Photo: Wikimedia Commons/C2RMF
15. ヨハネス・フェルメール《レースを編む女》(1669-1670)|Photo: Wikimedia Commons
16. ジャック=ルイ・ダヴィッド《皇帝ナポレオン1世と皇后ジョゼフィーヌの戴冠式》(1806-1807)|Photo: Wikimedia Commons
17. ウジェーヌ・ドラクロワ《民衆を導く自由の女神》(1830)| Photo: Wikimedia Commons
18. ミケランジェロ《抵抗する奴隷》《瀕死の奴隷》(1513-1515) |Photo: Wikimedia Commons/Shonagon
19. グレゴール・エアハルト《マグダラのマリア》(1515-1520年頃)| Photo: Wikimedia Commons/Leyo
20. ギヨーム・クストー(1739-1745)|Photo: Wikimedia Commons/Jastrow
21. アントニオ・カノーヴァ《プシュケとクピド》(1787-1793) |Photo: Wikimedia Commons/Jean-Pol Grandemont
22. フランス王冠の宝石P(1710-1774)|Photo: Wikimedia Commons/Cristian Bortes
23. マリー・アントワネットのシリンダーデスク(1784) |Photo: Wikimedia Commons/Tangopaso
24. ナポレオン3世の居室|Photo: Wikimedia Commons/Daniel Perez Sutil
25. アケテテプの墓(紀元前2445–2385年頃) |Photo: ©2003 Musée du Louvre, Dist. GrandPalaisRmn/ Christian Décamps
26. エジプトのミイラ(紀元前305-30年頃)|Photo: Wikimedia Commons/ Shonagon
27. 聖ルイ王の洗礼盤(1325–1340)|Photo: ©2009 Musée du Louvre, Dist. GrandPalaisRmn/ Hughes Dubois
28. 詩作競争のタイル画(1600–1700年頃)|Photo: ©2012 Musée du Louvre, Dist. GrandPalaisRmn/Raphaël Chipault
29. ロッソ・フィオレンティーノ《ピエタ》(1530–1540)|Photo: ©1998 GrandPalaisRmn (Musée du Louvre)/René-Gabriel Ojéda
30. ジャンヌ・デヴルーの聖母子像(1324–1339)|Photo: Wikimedia Commons/Shonagon
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