アート・バーゼルとUBSが最新のコレクター調査を発表。Z世代が体現する境界なき収集スタイル
アート・バーゼルとUBSは10月23日、世界のアートコレクターに対する調査レポート「Global Collecting 2025」を発表した。それによると、Z世代がアートとスニーカーや高級品を同列に扱うなど、従来の収集観を覆しているという。
アート・バーゼルとUBSは毎年、世界のアートコレクターに対する調査レポートを発行しており、その2025年版「Global Collecting 2025」が10月23日に発表された。これは、2024〜2025年前半にかけて、世界の主要14カ国、3100人以上の富裕層のアートコレクターを対象に行った調査をもとに、文化経済学者のクレア・マッキャンドリューが執筆している。
同レポートによれば、Z世代コレクターは総資産の26%をアートとコレクティブルにあてており、全世代で最も高い割合となっていることが明らかになった。なかでも、コレクション関連の支出の56%をコレクティブルに費やしており、富裕層の全体平均41%を大きく上回っている。
Z世代はまた、アートとスニーカー、デジタル資産、そしてデザインを並列に扱い、境界線を設けずに収集している。レポートはさらに、この世代にとってコレクション形成は投資であると同時に、自らのアイデンティティを形成するポートフォリオだと指摘する。
実際の収集内容を見ると、若いコレクターが手に取るのは、美術館の所蔵作品というよりも、日常生活に組み込めるファッションやデザイン製品だ。限定スニーカーや高級バッグ、腕時計、さらにはクラシックカーやスポーツ関連のメモラビリアまでを、資産ポートフォリオに組み入れている。これらはデジタルアートや生成AIを用いたジェネラティブアートと同列に扱われ、美術と消費文化の境界を横断している。さらに報告書は世代別の傾向も明らかにしており、ベビーブーマーが美術品や骨董に、ミレニアル世代が宝飾品や装飾芸術に比重を置く一方で、Z世代はより広範なカテゴリーへ資産を配分しているという。とりわけクラシックカーや限定スニーカーなどには、他世代の約5倍に相当する投資が向かっている点が特徴的だ。
こうした美術と消費文化の境界を横断する動きの背景には、「価値の再定義」が進んでいることがある。アートはデザインやラグジュアリー品と同列に扱われ、デジタルネイティブのZ世代は特定のジャンルに縛られず市場を横断して収集しているという。
今後コレクションに何を加えるか若いコレクターたちに尋ねてみると、41%が骨董品、40%が宝飾品と回答。また、約3分の1が腕時計やデザイン作品、限定品のワインや蒸留酒を購入する予定だと答えた。かつては軽視されていた装飾芸術やデザインに対する関心は現在高まっており、ミレニアル世代とZ世代における購入意欲は2倍以上に増加している。
とはいえ、ペインティングと彫刻作品に対する購入意欲は依然として根強く残っている。向こう1年で作品を購入すると答えた富裕層コレクターの間では、絵画が引き続き人気を誇っており(48%)、彫刻がそれに続く(37%)。Z世代のコレクターは彫刻作品に最も高い関心を示しており、40%が購入予定だと答えた。これは、X世代やミレニアル世代よりも高い割合だ。
絵画と彫刻に対する需要は前年と変わらず安定していた一方、ドローイングや水彩画、版画、写真といったジャンルへの関心は減っている。唯一の例外がデジタルアートで、コレクターの23%が年内にデジタルアートをコレクションに加える予定だといい、前年の19%から上昇。Z世代に至っては26%が取得の意欲を示していた。
デジタルアートに対する関心が増えた根底には、ジェネラティブアートに対する需要が高まっていることが関係している。コレクターたちに所有している作品を尋ねてみたところ、デジタルアートの割合は現在13%に上っており、昨年の3%から急激に増加した。
ここで特筆すべき点は、デジタルアートの所有者が若年層と女性、とりわけZ世代女性に多い点だ。Z世代女性の32%が少なくとも1点のデジタルアートを所有している一方、X世代の女性の49%は所有していない。これは投機ブームの再燃ではなく、若い世代がデジタル作品の所有という概念に親しみがあることを示している。
こうした多様なジャンルが横断的に収集される根底には、作品を所有することの意味合いに変化が起きているという事実がある。Z世代は社交性と表現性を重視し、自己表現に重きを置いており、それが収集スタイルにも反映されている。若いコレクターたちにとってアートは社交のツールであると同時に、自身のアイデンティティを表現する手段となっており、単に壁にかけたり倉庫に保管するものではない。Z世代の場合、購入チャネルも変化しており、コレクターの51%は実物を見ずにInstagram経由で作品を購入し、35%がInstagram上のリンクから直接購入している。
こうした販売チャネルの変化により、アート収集の中心は従来のギャラリー空間からSNSのフィードへと移りつつある。アートフェアも依然として重要だが、コレクターのアイデンティティは複数のプラットフォームを横断して形成され、作品を所有すること自体が一種のコンテンツになりつつある。
未来のアートマーケットを担うコレクターたちは、村上隆のプリント作品と、限定版のナイキの「ダンク」の間に境界線を設けていない。どちらも文化を象徴する記号であり、所有することの喜びと、社会的・経済的な価値を有していると彼らは考えている。
Z世代のコレクターは投資家であり、キュレーターであり、インフルエンサーでもある。「Global Collecting 2025」が明らかにしたこの多面的な姿こそ、20年前のグローバル化による市場再編以来の大きなパラダイムシフトだ。その先に待つのは、収集の民主化ではなく、収集の仮想化なのかもしれない。(翻訳:編集部)
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