ゾーラン・マムダニ、左派の新NY市長誕生にアート界は何を思うか──SNS上で交錯する期待と懸念

34歳という若さでニューヨーク市の新市長となったゾーラン・マムダニ。富裕税や法人税の増税を財源に、バスや保育の無償化を掲げる彼の当選に、アート界はどんな反応を示したのか。

勝利演説に臨むゾーラン・マムダニ。「ドナルド・トランプに裏切られた国で、彼を打ち負かす手本を示すことができるとすれば、それは皮肉にも彼を台頭させたこの街に他ならない」と語った。
勝利演説に臨むゾーラン・マムダニ。「ドナルド・トランプに裏切られた国で、彼を打ち負かす手本を示すことができるとすれば、それは皮肉にも彼を台頭させたこの街に他ならない」と語った。

「民主社会主義者」と自らを位置付けるニューヨーク州議会議員、ゾーラン・マムダニがニューヨーク市長選で前ニューヨーク州知事のアンドリュー・クオモを破り、2026年1月1日から新市長に就任する。ニューヨーク市内外のアーティストやキュレーター、批評家たちは、マムダニの勝利に希望と喜びの声を上げる一方で、彼の就任が市のアートシーンに及ぼす影響について懸念を示す声もある。

肯定的な反応の例を挙げると、ニューヨークに拠点を置く批評家で、2026年ヴェネチア・ビエンナーレのアドバイザーを務めるシッダールタ・ミッターはInstagramにこう投稿した。

「マムダニが当選したことで、ニューヨーク市がトランプ主義に対して説得力のある反論を提示するだけでなく、世界全体にとって市民社会の再生の灯火となる注目すべき瞬間だ」

また、アーティストのアリア・ディーンは、「The Red Apple(*1)」というタイトルとともに共産主義の象徴である鎌と槌を手にしたマムダニが描かれたニューヨーク・ポスト紙の表紙をInstagramストーリーズに投稿し、星の目の絵文字を添え喜びを示していた。

(*1)「ビッグアップル」として知られるニューヨークが「赤化(共産主義化)」したという風刺的表現。

マムダニは市長候補として注目される以前から、アーティストたちの支持を受けていた。Artnet Newsによれば、予備選挙前に開催されたギャラリストのエリーゼ・デロシアによるイベントには、多くの著名アーティストが参加した。参加者のひとりであるディーンは、Artnetにこう語っている。

「労働者階級を顧みない市政に苦しめられている人がダウンタウンには多いからこそ、マムダニの政策は共感を呼んでいるのではないでしょうか。保守層からかけられていた共産主義者のレッテルを剥がすのになぜこんなに時間がかかったのか、正直わかりません」

さらに、マムダニに寄付を行ったアーティストも多い。その代表的な例として、サーニャ・カンタロフスキー、タウバ・アウエルバッハ、サルマン・トゥール、クロエ・ワイズらが挙げられる。トゥールは開票速報の最中、2007年に描いた若きマムダニの肖像画を自身のInstagramストーリーズに再投稿していた

家賃上昇の凍結や市営スーパーの導入など、ニューヨーク市民が暮らしやすい公約を打ち出した一方で、マムダニはイスラエルによるパレスチナ侵攻の終結も強く訴えてきた。劇作家で反シオニスト団体「Jewish Voice for Peace」でも活動するモーガン・バシチスはマムダニの勝利を祝福し、「パレスチナ問題の解決も含め、私たちが望む暮らしが実現するまで団結し続けなければならない」とInstagramに投稿している。

その一方で、多くの美術館やギャラリーはマムダニの当選についての公式見解は示していないが、5番街にギャラリーを構えるエル・ムセオ・デル・パリオは、次のような投稿をしている。

「芸術を盛り立て、抑圧されてきた人々の声を届け、文化がニューヨーク市の中心であり続ける未来を保証するマムダニ政権の下で暮らすことを、非常に楽しみにしています」

市長選について言及した数少ない文化機関のディレクターの1人が、アメリカス・ソサエティのエメ・イグレシアス・ルーキンだった。開票前に彼女は、「ニューヨークがアメリカで最高の街であることを証明する結果を期待しています」というコメントを、マムダニのステッカーを身につけた写真とともに投稿していた。写真家のローリー・シモンズは、「Gays for Zohran(ゲイによるゾーラン支援)」や「Moms for Mamdani(母親によるマムダニ支援)」といった支援グループの取り組みを称賛し、フォロワーたちに投票を呼びかけていた。

マムダニの当選を喜ぶ声が多いなか、慎重な、あるいは批判的な見方もあった。著名な美術批評家、ジェリー・サルツはマムダニを評価しつつ、「私たちの期待に応えられなければ批判できる点にこそ、彼に投票する意義がある」とコメントしている。

また、民主社会主義者の市長誕生を快く思わない声もあった。アートマーケットに関する情報を投稿しているInstagramアカウント「Jerry Gogosian(ジェリー・ゴゴシアン)」は、次のように批判している(この投稿は1000件以上のいいねを集め、コメント欄でも賛否をめぐる議論が活発に交わされた)。

「マムダニはアート界に悪影響を及ぼす。アーティストたちは作品の売り上げをディーラーと折半しなければならないことに不満をもっているはずなのに、マムダニ政権下では、その残りからさらに富裕税が引かれるかもしれない」

地方選挙ながら、マムダニの勝利はニューヨーク市外の関心も集めた。カリフォルニア州のバークレー美術館・太平洋フィルムアーカイブのチーフキュレーターであるマーゴット・ノートンは、「誠実さをもち、支持できる政策を掲げた初めての候補だ。この結果は人々の力が権力者を上回れることを示した選挙だ」と称賛した。

さらに、ヴェネチア・ビエンナーレ銀獅子賞を受賞したアリ・シェリも、「ニューヨークの友人たち、おめでとう」と投稿するなど、国際的に祝福の声が広がっている。(翻訳:編集部)

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