「合理性からの脱却」を標榜する“わたしたち”のアートフェア──EASTEAST_TOKYO 2025が開幕

商業主義的なアートフェアへのカウンターとして2020年に誕生したEASTEAST_の第3回が、東京・科学技術館で幕を開けた。市場性よりも関係性に希望を託す若き実践者たちが築く「文化的エコシステムの実験場」をレポートする。

EASTEAST_TOKYO 2025の会場となった東京・科学技術館の外観。Photo: Masaki Yato
EASTEAST_TOKYO 2025の会場となった東京・科学技術館の外観。Photo: Masaki Yato

アートウィーク東京の後半戦と重なる日程で、それとは対照的なアートイベント、2025年版EASTEAST_TOKYOがスタートした。

コロナ禍の2020年に、主にミレニアム世代の「アート・ファッション・音楽・デザイン・建築」分野で活動するアーティストやクリエーターたちによって東京・馬喰町を舞台に立ち上げられたEASTEAST_は、複数の発起人の言葉を総合すると、「ぼくらの時代」のアートを介した「新たな関係や新しい会話を生み出す」ための「文化的エコシステムを探求する実験」であり、作品を展示・販売する場としての機能は保持しつつも、市場性よりも関係性に重点を置いた、欧米型アートフェアのカウンター的立場を取るイベントだ。

第2回開催となった2023年に続き、3度目の今年も科学技術館を会場に、小山登美夫ギャラリー(初出展)やANOMALYなど国際的知名度を誇るアーティストが所属する東京発の著名ギャラリーから、PARCELやCON_といったアジアや欧米のアートフェアにも積極参加する東京拠点の気鋭ギャラリー、そして、高感度なカルチャーコミュニティから熱烈な支持を得ている山梨のGallery Trax、住所非公開・完全予約制の鑑賞室「HAITSU」から派生したプロジェクトであるPingPaling、さらにはソウルのCYLINDERほかアジア圏のギャラリーなど、主催者から招待を受けた合計26組の出展者が参加している。

EASTEAST_TOKYO 2025の会場風景。Photo: Masaki Yato
EASTEAST_TOKYO 2025の会場風景。Photo: Masaki Yato

巨額の出展料と協賛金を主たる収入源にしている高ステータスなグローバル・アートフェアのビジネスモデルに抗うように、「実験の場」であるEASTEAST_において、出展者の負担はごくわずか(あるいは皆無と言っても過言ではない)だ。PARCELのオーナーであり、中高生向けのクリエイティブスクール「GAKU」やデザインイベント「Alter.」なども展開するEASTEAST_ファウンダーの武田悠太は、従来型のアートフェアの仕組みをあえて選択しない理由をこう語る。

「とくに東京のような大都市において経済合理性や効率が優先されるのは、ある意味仕方のないこと。でも、それらを追求しすぎた結果、芸術はエンタメ化しつつあるようにも感じます。そういう状況に対する一つの応答として、EASTEAST_では、効率や合理性に全く紐付かないアートイベントのありようを模索したいと考えました。そうした態度を示し続けることが、僕らが次の世代に受け渡すことができる批評性なのではないかと思うからです」

そうした批評性は、EASTEAST_のDIY精神に満ちた会場設計にも見てとれる。太古の昔から人は水辺=川辺に集い、生活を営んできた。そしてその川を中心に街ができ、整えられ、発展してきた。そうした都市の血脈としての川にヒントを得て、今年のEASTEAST_では従来型アートフェアのお決まりである(あるいは商業施設の定型でもある)無駄のないグリッド型からの脱却を試み、まるで東京の下町の裏路地を歩くような感覚で、ときに迷ったりしながら多様な表現に出合える動線が敷かれている。同イベントのギャラリーリレーション担当ディレクターで出展者でもあるNozza Serviceの渡邉憲行は、「見やすさ」に主眼を置かない設計の背景には、「出展者同士の、あるいはオーディエンスとアーティストと出展者たちの関係性が有機的に発展していくことへの期待がありました」と話し、こう続ける。

「今の時代において、非合理的なことをどこまで歯を食いしばってできるか。その先に何があるかはわからないけれど、やってみる価値はある。EASTEAST_は、そうした実践の場でもあるんです」

EASTEAST_TOKYO 2025の会場風景。Photo: Masaki Yato
EASTEAST_TOKYO 2025の会場風景。Photo: Masaki Yato
EASTEAST_TOKYO 2025の会場風景。Photo: Masaki Yato
EASTEAST_TOKYO 2025の会場風景。Photo: Masaki Yato
EASTEAST_TOKYO 2025の会場風景。Photo: Masaki Yato
EASTEAST_TOKYO 2025の会場風景。Photo: Masaki Yato
EASTEAST_TOKYO 2025の会場風景。Photo: Masaki Yato
EASTEAST_TOKYOの展示風景。Photo: Masaki Yato
EASTEAST_TOKYOの展示風景。Photo: Masaki Yato
EASTEAST_TOKYO 2025の会場風景。Photo: Masaki Yato

エスタブリッシュされたアートフェアの目玉となるような数億円の大作はなくとも、会場をくまなく歩くと、手のひらサイズの小さなセラミック作品からキネティックな大型作品、ブース自体がパフォーマンスアートの舞台となっているもの、「弱いナラティブ」をテーマにした映像やサウンド、パフォーマンスアートを発表するプロジェクト「EE_V/S/P Program」まで、さまざまな同時代の表現に出会うことができる。出展者やアーティストとの他愛もない会話も、EASTEAST_を訪れる醍醐味であり、そこでしか生まれない価値の一つだろう。また、建物の外に広がる北の丸公園第一駐車場では、アーティストコレクティブ、GCmagazineによるインスタレーションや、GILLOCHINDOX☆GILLOCHINDAE(ギロチンドックスギロチンディ) によるアートプロジェクト「獸(じゅう)第3章 / EDGE」の壮大なインスタレーションなども展開されている(「獸」は別途入場料が設定されている)。歩き疲れたら、東京の知る人ぞ知るスパイス料理のレストラン「TYON」も出店する「EE_Kitchen& Bar」で空腹を満たしたり、ワイン片手に語り合うこともできる。

やもすると特権的、商業主義的になりがちなアートというものを「わたしたちの手に取り戻す」──そういうと野心的に聞こえすぎるかもしれないが、EASTEAST_には、平和的で楽しい雰囲気の中にも、そんな切実な思いが漂っている。

EASTEAST_TOKYO 2025
日程: 11月7日(金)~ 10日(月)(7日はプレビュー)
会場:科学技術館(東京都千代田区北の丸公園2-1)
開館時間:12:00〜19:00(最終日は17:00まで) ※ 最終入場は閉場の1時間前まで
料金:一般 2000円 / 23歳以下 1000円(いずれも1日券)

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