贋作鑑定に保険が下りる時代が到来? 英テック企業が保険付き鑑定サービスをスタート
美術品の真贋鑑定に保険を付帯する画期的なサービスが登場した。科学分析とAIを組み合わせた鑑定結果が誤っていた場合、所有者の損失を保険でカバーできるという。
コレクターが購入した作品やアーティスト、ギャラリー、美術館が所有する作品には通常、盗難、火災、水害に対する保険がかけられている。しかし、誤った帰属や贋作と判断された場合でも、客観的な基準で責任を問うことが難しく、保険の対象とするのは困難だった。この問題を解決すべく、ロンドンとニューヨークに拠点を構える美術鑑定会社ArtDiscoveryは、「世界初の保険つき真贋保証」と銘打ったサービスの提供を開始した。
ArtDiscoveryの最高経営責任者(CEO)を務めるデニス・モイセエフによれば、このサービスには、科学分析、自社AIによる鑑定、そして来歴調査を実施し、鑑定結果に対して大手保険会社の保険が付帯するという。この仕組みにより、鑑定結果が誤っていた場合でも、所有者は損失を保証される。モイセエフはこのように説明する。
「これまでのアートマーケットは、販売者側が提示する保証に依存しており、問題が生じた場合の第三者保証はついていませんでした。つまり、販売者の善意による返金か訴訟を起こす以外の選択肢はなく、報われるケースはそう多くなかったのです。真贋鑑定は長いこと市場で見過ごされてきた要素でした。私たちは憶測ではなく証拠を提供し、信頼できる保証を提供する枠組みを構築しました。これによって、コレクターと販売者は安心して取引できるようになりますし、作品を担保に貸付を行う場合、融資者の安心材料にもなるはずです」
また、ArtDiscoveryの保険付き証明書は、鑑定額の0.6%で発行されると同社の最高財務責任者(CFO)を務めるスティーヴン・マズローは語る。この価格は鑑定手法の確実性と保険会社の信頼によって実現したという。マズローはさらに、この証明書が買い手や売り手、アドバイザー、貸し手の利害を一致させ、譲渡可能な保証として作品に付帯する点を強調した。
スイス・プライベート・ファイナンスのマネージング・パートナーで、作品を担保にする顧客向けに融資を手配するブローカーであるフランソワ・デスウェルトは、US版ARTnewsに対し、この種の保証は、作品の真贋が大きな障壁となっているアート金融業界において、「画期的なソリューションだ」と語った。
美術品の真贋鑑定は不透明で個人の意見に基づく結果が多いことから、業界全体の評判はあまり高くない。また、作品が本物ではないと告げられたコレクターによる、数百万ドル規模の訴訟に発展することも多々ある。
こうした背景もあってか、テクノロジーを活用した確実な真贋分析の提供を謳うAI鑑定会社がここ数年でいくつか登場している。そのひとつが、ロンドン拠点のテック企業、Hephaestus Analyticalで、来歴調査と高度な科学分析、そしてAIを組み合わせて作品を鑑定している。同社は1月にArtDiscoveryを買収した。買収に際してモイセエフは声明にて次のように述べていた。
「AIはツールであって、万能薬ではありません。人間が有する専門知識と科学的検証を併用すべきです。ArtDiscoveryが有する顔料のデータベースや修復家のチームがHephaestus Analyticalに加わることで美術品鑑定における新たな可能性を解き放ち、これまで以上に精密な鑑定結果を提供できると同時に、より多くの人が利用できるサービスになるでしょう」
ロシアとウクライナの近代美術を専門に扱うロンドンのディーラー、ジェームズ・バターウィックは、作品の真贋鑑定にArtDiscoveryを利用したといい、US版ARTnewsに対してこう語った。
「このサービスのおかげで、『これは単なる私の意見ではなく信頼できる結論であり、パズルを完成させる最後のピースを提供するものです』と、クライアントに自身をもってお伝えできるようになりました」
(翻訳:編集部)
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