アブラモヴィッチが明かす、現代美術史の重要作《The Artist is Present》誕生秘話

11月18日、イギリスのドキュメンタリー作家でジャーナリストのルイス・セルーのポッドキャストにマリーナ・アブラモヴィッチが出演。2010年に発表された伝説的パフォーマンス《The Artist is Present(作家は在廊中)》が、当初キュレーターに強く反対されていたことを明かした。

2010年3月9日、ニューヨーク近代美術館(MoMA)で発表されたパフォーマンス《The Artist is Present(作家は在廊中)》の様子。Photo: Andrew H. Walker/Getty Images

11月18日、BBCの数多くの番組で知られるイギリスのドキュメンタリー作家・ジャーナリスト・著述家、ルイス・セルーのポッドキャストにマリーナ・アブラモヴィッチ出演し、2026年12月8日にアメリカ初公演を控えたパフォーマンス作品《Balkan Erotic Epic》(2005)などについて語った。

その中で、2010年にニューヨーク近代美術館(MoMA)で発表され、物議を呼んだパフォーマンス《The Artist is Present(作家は在廊中)》にも話が及んだ。

同作は、会場に置かれたテーブルを挟んで向かい合う2脚の椅子の片方に、アブラモヴィッチが1日約7時間、合計約736時間にわたって座り続けるというもので、来場者は、もう一脚の椅子に座ることができる。「観客とアーティストの関係」や「存在することそのもの」を問う、現代アート史でも特に重要なパフォーマンスの一つとして知られている。

アブラモヴィッチは、同作の誕生には、当時ニューヨーク近代美術館の主任キュレーター・アット・ラージ(ジャンル横断的に活動できる上位キュレーター職)を務めていたドイツ人キュレーター、クラウス・ビーゼンバッハの存在が大きかったと振り返った。ビーゼンバッハは彼女を招聘し、アブラモヴィッチの歴史的パフォーマンス作品の再演を含む、50作品を網羅した同館初となる回顧展を企画した。

クラウス・ビーゼンバッハ。Photo: Hannes P Albert/dpa/picture alliance via Getty Images

2人が展覧会タイトルについて話し合う中で、ビーゼンバッハは「展覧会名は『The Artist is Present』にしよう。君はいつも作品の中にいるからね」と提案したという。これは、展覧会のオープニング招待状によく記される「The artist will be present(アーティストが来場予定)」という文言にも掛けられていた。

アブラモヴィッチは、この言葉を聞いた瞬間、「自分が何をすべきか分かった」と語る。そして当時をこう振り返った。

「私は従来通りにオープニングに出席し、旧友に会い、素敵なディナーを楽しみ、美術館で素晴らしい展覧会を開催できたことに満足して終えられたはずです。ですが、私は人々にパフォーマンスの変革力を見せたかった。毎日動かず椅子に座り続けることで何が起こるか、見たかったのです」

しかし、アブラモヴィッチがこのパフォーマンス案を提示すると、ビーゼンバッハは完全に却下したという。

「クラウスは私に言いました。『君は馬鹿げている。ここはニューヨークだ。この椅子に座る時間がある人なんて誰もいない。ただ空席になるだけだ』と。ですが、椅子が空になることは一度もありませんでした」

アブラモヴィッチが《The Artist is Present》を開始すると、ニューヨーカーたちは作品と向き合う時間を取り、中には7時間座り続ける来場者も現れた。涙を流す者もいた。観客だけでなく、かつてのパートナーでドイツ人アーティストのウーライ(フランク・ウヴェ・ライジーペン)も来場し、長時間のパフォーマンスで知られる台湾系アメリカ人アーティスト、シェ・テチンも敬意を示すために姿を見せた。

アート・イン・アメリカのクリステン・スウェンソンは、当時の様子をこう描写している

「美術館が開館している毎時間、彼女はアトリウムに置かれた素朴な木製テーブルの前で、強いライトに照らされ静かに座っていた」

「来館者は彼女の向かいに座るよう誘導される。私が訪れた時、彼女の瞑想的な静けさは真に変容をもたらすものだった。ティーンエイジャーはメールを打つのをやめ、喋っていたグループは立ち止まり……作品を見た。これまでのアブラモヴィッチ作品を見た人数より多くの鑑賞者が、このパフォーマンスを目撃することになるだろう。そして、鑑賞者による物語的な記述が、いつものように作品の最も生き生きとした記録となるだろう」

アブラモヴィッチは2022年、ウクライナ支援オークションに協力するため、ニューヨークのSean Kelly Galleryで《The Artist is Present》を再演した。

US版ARTnewsは、現在はベルリンの新ナショナルギャラリーで館長を務めるビーゼンバッハにコメントを求めたが、記事の公開時点で返答はなかった。(翻訳:編集部)

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