自己模倣のループに陥ったジェフ・クーンズ──巨額と技術を投じた7年ぶりのNY個展、精彩を欠く
ガゴシアンに戻ったジェフ・クーンズが、ニューヨークで7年ぶりとなる個展を開催中だ。だが、壮麗な新作群に驚きはなく、確立された作風が反復されているだけだ。
ジェフ・クーンズが1980年代後半に制作した「Banality(バナリティ)」シリーズの彫刻は、決して凡庸ではない。部分的に裸の女性をピンクパンサーが抱きしめる像など、一度見たら忘れがたいものばかりだ。しかし、11月13日からニューヨークのガゴシアンで一般公開されている、高さ約2.5メートルの裸体像《Aphrodite(アフロディーテ)》(2016〜21)のような近作には、そこまでの独自性は見当たらない。作品の前に立った瞬間、あまりに刺激を受けず、この場にいたくないとさえ感じてしまった。
ロイヤル・ドゥクス社の磁器人形をもとにステンレス鋼で制作された《Aphrodite》は、表面が不自然なまでに滑らかで、巨大だ。ボッティチェリの《ヴィーナスの誕生》というより、むしろSFホラー映画『アナイアレイション -全滅領域-』(2018年)の終盤に登場する「異形の存在」を彷彿させる。《Aphrodite》は理論上、観者を小さく感じさせたり、誘惑したりすることで畏怖の念を抱かせるはずの作品だ。しかし、この彫刻も、本展に出品された他のすべての作品も、その基本的な役割さえ果たしていない。潤沢な資金と技術力を背景に、クーンズはかつて自身がインスピレーションを得たチープなオブジェと同じくらい「凡庸」な作品群を生み出してしまった。それでも、コレクターの購買意欲を損なうことはないのだろうが。
より刺激的なものを期待してしまうのも無理はない。クーンズが最後にニューヨーク(彼の巨大スタジオが拠点とする都市)で個展を開いてから、すでに7年が経っているからだ。前回のガゴシアン・ニューヨークでの個展以降、クーンズは1986年に制作した《Rabbit》が2019年に9110万ドル(最新の為替レートで約143億円)で落札され、「世界で最も高額な存命アーティスト」となった。そして、ガゴシアンとデイヴィッド・ツヴィルナーを離れ、メガギャラリーのライバルであるペースへ移籍し、そして再びガゴシアンへ戻った。また、この間に2件の訴訟に直面し、1件には勝訴し、もう1件には敗訴している。
クーンズがニューヨークで最後に「新シリーズ」を披露したのは、さらにさかのぼって2013年のこと。この年彼は、青い球体と古代ギリシャ・ローマ美術の白い石膏像を組み合わせた「Gazing Ball(ゲイジング・ボール)」シリーズを発表した。「ゲイジング・ボール」は批評家にも、そしておそらくコレクターにも不評だったが、当時のクーンズの新たな方向性を示すものではあった。それ以前の約10年間、彼は主に抽象表現に取り組んでいたからだ。しかし今回のガゴシアンの展示からは、当時と同じようなクーンズの転換は見てとれない。彼は自らの過去作をあからさまに引用しながら、自己模倣を繰り返すループに陥っている。
1990年代に発表されたクーンズの「Made in Heaven」シリーズの絵画は、その「エロトマニア(性愛妄想)」で物議を醸したが、この要素も本展で再び反復されている。もっとも、さまざまな性的昂りの状態で自らをモデルにした当時の露骨さはないのだが。《Kissing Couple》(2016–25)のような作品は、唇を重ねる男女を描いているが、その仕草は挑発的ではあっても大胆さには欠ける。2010年代にクーンズが古代美術へと視線を移す中で、作品に繰り返し登場した「偶像崇拝」のモチーフも、《Three Graces》(2016–22)のような作品に再び現れている。ここでは3人の裸体の女性が花輪を身体に巻きつけている。そして1980年代以来、クーンズが興味を抱いてきた「スケールを変えることで小さなオブジェに突然大きな価値が宿る」というテーマも健在だ。本展では、かつてのバルーンドッグやプレイドウの山ではなく、手のひらに収まるような磁器の小像へとその関心が向けられている。
今回の新作群は、意図的に「過去からの盗用」に主題を置いている。幅3メートルの絵画《The Judgment of Paris》(2018–25)では、16世紀の版画家マルカントニオ・ライモンディの作品から筋骨たくましい裸体像や犬を引用し、アルミ箔で再構成したうえで、ピンクの絵具をループ状に塗り重ねている。原作の不穏な空をけばけばしい夕焼けに置き換えることで、クーンズは「ラファエロを再解釈したライモンディ」をさらに再解釈しているのだ。しかし同時にこれは、1980年代に広告を巨大スケールで絵画化し、作家性(オーサーシップ)を問いかけていたころのクーンズ自身を、クーンズが再び模倣しているとも言える。
語るべき新しいことがなくなったクーンズは、既に掘り下げたコンセプトを着せ替えることに注力している。ガゴシアンのマガジンのインタビューで彼は、《The Judgment of Paris》が「200年後も現在と変わらぬ姿を保つよう、スタジオとともに多大な労力を注いだ」と説明している。だが気の毒なことに、彼は知らないのだ——来年の今ごろには、《The Judgment of Paris》をはじめ、2月28日まで公開されているこの「記憶に残りにくい展示」のどの作品も、誰の記憶にも留まってはいないということを。(翻訳:編集部)