超富裕層の27%がアート購入「増加」の意向。UBS「ビリオネア・アンビションズ・レポート2025」

世界的な富裕層向けウェルス・マネジメントで知られるUBSから、「ビリオネア・アンビションズ・レポート2025」が発表された。その結果には、ここ数年低迷していたアート市場に差し込むわずかな光が見える。同レポートから超富裕層のアート購入意向を見てみよう。

2025年アート・バーゼル・マイアミ・ビーチのVIPプレビューの様子。Photo: Arturo Holmes/Getty Images

スイスに本社を置き、世界で50あまりの国や市場における拠点と6.9兆ドル(約1070兆円)の運用資産を有する大手金融機関のUBSが、12月4日に第11回「ビリオネア・アンビションズ・レポート」を発表した。

同レポートによると、世界のビリオネアの資産総額は2025年に史上最高を記録。196人のビリオネアによる総資産の増加額は3865億ドル(約60兆円)で、その総額は過去最高の15.8兆ドル(約2450兆円)に上った。これは2015年から続く調査で2番目に高い年間増加額で、ビリオネアの数は前年の2682人から8.8%増の3000人弱となっている。

また、大規模な世代間の資産移転が加速しており、2025年には相続者数は減少したが、91人が過去最高額の2978億ドル(約46兆円)を相続。2024年比で36%の増加を示している。

同レポートでは、アメリカ、ヨーロッパ、シンガポール香港の超富裕層顧客87人を対象に、今後1年間の美術品・古美術品の購入意向について聞いている。その結果は、近年の市場の冷え込みで苦境にあるアートディーラーにとって明るい兆しと言えるものだ。

調査対象者の回答を見ると、美術品や骨董品への投資を「大幅に、あるいはやや」増やす計画があるとしたビリオネアは全体の4分の1強にあたる27%。この分野への投資をこれまでと同水準で継続するとの答えは約3分の2にあたる65%で、両者を合わせると92%に達する。

UBSのアメリカ地域アートアドバイザリー責任者、マシュー・ニュートンは、アート投資を増やす計画のあるビリオネアの割合は、債券・米国債・現金・貴金属の保有を増やす計画があると答えた割合とほぼ同程度であることを指摘。電話での取材にこう答えている。

「アート資産は、富を増やすためではなく、守るためにあります。これは、私がクライアントに接する中で一貫して経験してきたことです。特に、相当なアートコレクションを所有する超富裕層で、アートを資産増の手段と考える人はごく少数です。また、そこからリターンを得ようとするケースもほとんどありません。それは彼らにとって非常に重要なことであり、これからもそうあり続けるでしょう」

地域別で美術品や古美術品の購入意欲が最も高いのは、世界第2位のアート市場、イギリス(*1)を擁するEMEA(ヨーロッパ、中東、アフリカ)で、3分の1以上(35%)が投資額を「大幅に、あるいはやや」増加させると回答。また、世界第3位のアート市場、中国を含むアジア太平洋地域では、4分の1が購入を増やす計画だとしている。

*1 アート・バーゼルとUBSの「Art Market Report 2025」による。イギリスは2025年に世界第2位に返り咲き、中国は前年の2位から3位に後退した。

一方、世界最大のアート市場であるアメリカ合衆国を含む南北アメリカ地域では、美術品・古美術品の購入を増やすとした割合は15%にとどまった。ニュートンは購入意向の結果について、次のように述べている。

「エクスポージャー(*2)を増やしたいという人が、減らしたいと答えた人の3倍もいるのは、買い手に需要があることを示していると思います。彼らは市場に参加、関与したいと考えているのです。ただ、彼らがどんな作品を求めているのか──今ギャラリーが模索すべき点はそこでしょう」(翻訳:石井佳子)

*2 保有する金融資産のうち、市場の価格変動リスクや特定のリスクにさらされている度合いや金額。

from ARTnews

あわせて読みたい